Special Edition ②

「彩葉」
「あ、郁さんっ」

滅菌分娩用ガウン、帽子とマスクを装着した郁は、看護師にLDRの部屋へと案内された。
分娩台の上に横たわり、沢山の装置に繋がれた彩葉を目にし、不安が過る。

郁は点滴が施されている手をそっと握る。
お腹周りにも装置が付いているのか、大判のバスタオルの下から何本ものコードが機械に繋がれている。

「痛みは?」
「今は無いです。そのうち陣痛があると思うけど」
「ん」

何て声を掛けていいのか分からない。

「さっき、葛城医師が来ただろ」
「あ、はい。医局に連絡入れて貰ったら、当直だったようで合間に来てくれました」
「そうか。気を遣ってくれて、中に入れて貰えたから、後で御礼言っといて」
「はい」

彩葉の髪を優しく撫でる。
こういう時、男は本当に無力だ。

「あの、郁さん」
「ん?」
「早ければ今日、遅くても明日には産まれますよ」
「そうみたいだな」
「万が一の時のために、手術同意書にもサインしといて下さいね」
「……ん」
「それと、寝室のベッドサイドに入院に必要なものを詰めたバッグがあるので、後で持って来て貰えますか?」
「ん、分かった」
「それから「まだあるのか?」
「………ハグして貰えますか?」
「っ……、ん、いいよ」

ギャッジアップのボタンを押し、上体を少し起こす。

医師であり、研修で分娩の執刀助手もした事のある彩葉であっても、やはり不安はある。
流産危機もあったし、初産ということもある。
言葉では言い表せないプレママあるあるの不安だ。

郁の長い腕に包まれ、何度となく押し寄せる不安の波がほんの少し和らいだ気がした。

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