Special Edition ②
気ばかりが焦る。
あんな風に驚かせてしまったのが悪かったんだ。
ちゃんと事情を説明して、しっかりと繋ぎ留めておくべきだったのか。
今さら後悔しても遅い。
会って、ちゃんと芽依に謝罪をせねば。
気を落ち着かせようとキッチンへと足を運ぶ。
すると、キッチン台の上に一枚のメモと共に芽依のスマホが置かれていた。
******
響さんと出会って十年
私の心には、いつもあなたがいました
仕事が多忙の時は、珈琲の過剰摂取にお気を付けください
カフェインの摂りすぎは、睡眠障害を悪化させます
夜寝れない時は、枕の位置を足下の方に変えてみて下さい
照明の角度が違うだけでも、入眠し易いらしいです
冷蔵庫と冷凍庫に、響さんの好物をつくり置きしておきました
食べたい時に温めて召し上がって下さい
秘書業務は、全て引き継げるように
デスクの上に必要なものを全て用意しておきました
響さんの幸せを祈っています
******
膝から崩れ落ちた。
誰しも、人生に一度くらいは大きな後悔をするんだろうが、これは絶対にやってはいけないやり方だと痛感する。
芽依、今どこにいるんだ。
頼むから、戻って来てくれ。
冷蔵庫の中に埋め尽くされたつくり置きの品に、溜息が漏れ出した。
電話やメールが繋がらないわけだ。
ここにあるんだから。
彼女のスマホを手にして、電源を入れる。
すると、パスコードが設定されていて、ホーム画面が立ち上がらない。
芽依の誕生日?
『1124』を入力する。
ダメだ、開かない。
俺の誕生日?
『0319』を試してみる。
これもダメだ。
他に思い当たる数字は……。