Special Edition ②

「えっ、璃子さん、俺聞いてませんよっ!」
「うん、だから今、話してるじゃない」

新年度を迎え、俺は『IR企画室 対策本部長』という肩書と共に、蓮水の後継者としての人生をスタートさせた。

留学中にMBA(経営学修士)を取得し、複数の大学でマーケティングや人材教育、ファイナンスや開発など多様に学び、家の事業を引き継ぐべく努力をして来た。

帰国して親の会社に新入社員として入社し、一人の女性に恋をした。
三年かけて漸く彼女の矛先を自分に向けれたと思っていたのに。

「今週末に引っ越すことを忘れたんですか?」
「覚えてるよ」
「覚えてて、それでどうしてそうなるんですか?!」

IR企画室は新しく立ち上げた部署ということもあり、四月中は業務の把握と部下の指導で手一杯だった。
ゴールデンウィークも明け、漸く落ち着いて来たというタイミングで、新居(会社から程近いタワーマンション)にお互い引っ越そうという流れだったのに。
なぜか、璃子さんの口から『暫く大阪に住むことになった』と、意味不明なことを聞かされた。

俺らが住む予定のマンションは港区でも一等地な場所で、通勤にも営業にも交通の利便性が高く、彼女の営業職を熟慮して選んだのに……。

「俺ら、結婚するんですよね?」
「……うん」
「俺と、結婚する気あります?」
「……あるよ」
「じゃあ何で、挙式間近で別居しなくちゃならないようなクライアントを引き受けるんですか」

分かってる。
璃子さんに文句を言ったってどうしようもないということくらい。
仕事一筋のバリキャリの璃子さんだから、やり甲斐のある案件なんだろうけど。

それでも、俺との生活を最優先して欲しかった。

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