Special Edition ②

昨日の悪夢が蘇る。

ひまりは恐る恐る手を差し出す。
けれど、杞憂だったのか。
デニーは握手のみして、優しい笑みを俺らに向けた。

『愛する者の支えがあれば、能力は無限大に伸びる』と。

愛は時として刃を向くことがあるけれど、基本、全ての力の源でもある。
だからこそ、その力を制御して正しい使い道をすればいいと言う。

さすが大物プロデューサー。
沢山のアーティストを育てているだけのことはある。

早口の英語が理解出来ないひまりは俺のジャケットをそっと掴んでいる。
そんな彼女の耳元にそっと囁く。

「俺ら、お似合いだって」
「っ……そうなの?」

嬉しそうに上目遣いの彼女が愛おしい。

「ッ?!……ひ、聖くんっ」
「あ、……ごめんっ、つい」

両親がいる前で。
大物プロデューサーもいる前で。
無意識にひまりの額に口づけてた。

けれど、ここはアメリカ・ロサンゼルス。
キスくらいじゃ誰も動じない。
動揺してるのはひまりくらいで。

『婚約者』として会場で紹介されていることもあって、誰も気にも留めない。
むしろ、当たり前だとさえ思われてるくらいだ。

『可愛らしい子だね』とひまりのことを褒めてるデニ―に愛想を振りまく両親。
そんな両親の目を盗んで……。

「んッ?!!ちょっ……」

ひまりの唇を奪った。
両親はともかくとして。
会場にいる他の連中に警告する意味で。

昨日の二の舞は踏みたくないから。

紅潮した顔で俺を見上げて来る。
そんな彼女の腰を抱き寄せて。
両親の視線を感じながら、彼女の髪に優しく口づけて。


この子への愛は揺るぎないから……と。

~FIN~

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