Special Edition ②

「彩葉~、悪い。珈琲頼む」
「あ、は~い」

 息子((かい))を寝付かせ、キッチンで後片付けをしている彩葉。
 リビングから愛しの旦那様の声が向けられた。

 彩葉はすぐさま郁のための珈琲を準備する。

 お湯を沸かし、カップを温め、彼こだわりのオーガニック珈琲を棚から出して。
 珈琲メーカーで淹れたものでは彼好みの味に調整できないため、いつもこうしてハンドドリップをしている。

 ゆっくり丁寧に淹れた珈琲に、彼お気に入りの製糖会社の角砂糖を1つ落とし、優しく掻き混ぜれば出来上がり。
 もちろん、カップの縁から3センチの量というこだわりも完璧にクリア。

 今日も完璧に淹れた珈琲を手にして、鼻歌交じりでリビングへと運んだ、その時。

「Stay!」(待て)
「……え?」

 リビングの端で、彩葉の足がピタリと止まった。
 今何て言った?
 鼻歌を歌っていたから聞き取れなかった。

 ス……ストップ?

 郁の視線はノートパソコンに固定されたままだが、右手が彩葉に向けられ、制止するように突き出された。

「郁さん?」
「Shut up」(黙れ)

 なっ……何ですって?!
 もしかして、私をご実家で飼ってるドーベルマンのサリー(♀)と勘違いしてない?

 カップを持つ手がわなわなと震え出す。
 珈琲を淹れてと頼んでおいて、飼い犬と勘違いするだなんて。

 彩葉は小さく息を吐き、彼の制止をもろともせずに歩み進めた、次の瞬間。

ステイ(・・・)!」(動くな)

 カッチーン!!
 さすがの彩葉でも、堪忍袋の緒が切れたようだ。

「今夜から向こう1週間、寝室への出入りを禁止します!」
「ッ?!!」
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