Special Edition ②

桜前線が北上し始め、日本列島が桜色に染まり始めた、そんなある日。

サーカス団を運営する会社に勤務している恋人のナナ(七海)は、新入社員の研修教育で忙しそうだ。

マーケティング事業部の本部長として働いている彼女は、スーパーの最大手企業から俺の為に転職したと言っても過言じゃない。
エリート職を手放してでも俺の傍にいることを選んでくれた。

普段は俺が所属するサーカス団に随行して常にデータを取ったり、イベントを企画したりしてくれているが、ここ数日は完全に本社業務が忙しいらしくて、姿を全く見ていない。

俺も新技というか、新しい演目を取り入れ、それを毎日練習していて、デートらしいデートが全く出来ずにいた。

サーカス団のトリを務める空中ブランコ(トラピーズ)のリーダーである俺は、己の演技は勿論のこと、メンバーの技の見極めもしなければならなくて。
技の成熟度を見極めて、どのタイミングでメンバー同士を構成させるか、日々悩まされている。

新しい演目は『クロスキャッチ』と『連続リリース』、それと『シークレットジャンプ』。

通常トラピーズは、ステージの両端にスイングバーが設置されていて、それが前後に振られ、タイミング合わせて離れ技を繰り出す。
メンバーが増え複雑な演技が可能になった事もあり、センター上部にもスイングバーが設置され、両端からタイミングをずらしてスイングし、センターを中点に連続技でキャッチ&リリースを行う。

他のサーカス団でも取り入れている演目だから、これだけでは特別感はあまりない。
うちのサーカス団独自の大技を今、必死に仕込んでいる最中。

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