Special Edition ②
電話の相手は恋人のナナ。
仕事の休憩時間にかけて来たようだ。
4か月ほど前にプロポーズし、結婚式をいつにしようかと話し合っている仲。
毎日彼女の顔が見たいけれど、本社が名古屋で、俺が今いるサーカステントは島根という遠距離状態。
本部長という役職上、指導者として新入社員の教育をしているらしい。
今日は名古屋市内のショッピングモールでアンケートを取るという実践指導をしているらしい。
そんな彼女に今後の予定を尋ねてみる。
「来週の予定は?」
「研修三昧だよ?」
「……休みはないの?」
「あるにはあるけど」
疲れ切っている声を聞くと、それ以上の事が言えなくなる。
『3月29日』、ナナは覚えているだろうか?
俺と初めてあったあの日を。
日本でいう春休み。
ナナは大学を卒業して、1人で俺の地元であるニューヨークに旅行に来ていた。
初めて彼女を目にしたのは、セントラルパークのシープメドウの芝の上。
夜という事もあり、昼ほど表情がよく見えたわけではないけれど。
大きな瞳からポロポロと大粒の涙を声を殺して溢していた。
何が原因なのか、聞いていいのかも分からず。
彼女の背中をただ摩ることしか出来なくて。
女性の涙がこんなにも心に響くとは思ってもみなかった俺は、完全にあの時に恋に落ちたというか。
一目惚れだったんだと思う。
中国人かと思ったら、日本人だったらしくて。
大粒の涙を溢れさせていた彼女が、一瞬で笑顔になった。
その美しさは今も忘れない。