Special Edition ②

会う度に声を殺して泣いていたナナ。
きっと心に傷を負っているのだろうと思ったから、俺はその傷を僅かな時間でも忘れさせてあげたくて。

何となく分かっていた。
恋人同士のカップルを目にする度に涙を流していたから、失恋して涙しているのだと。
本人に聞いたわけではないけれど、彼女を苦しめた男が憎らしくも思える一方、有難くも思えて。

彼女が1人でマンハッタンに来なければ、きっと出会わなかったと思うから。



「あっ、ジルごめんねっ。休憩時間終わりみたい」
「ん」
「またかけるね」
「ナナ、Love you…」
「Love you too…チュッ」

通話を切る際にリップ音のプレゼントまでしてくれた彼女。
……ナナを抱き締めたい、今すぐに。

あと何日我慢したら彼女に逢えるのだろうか?
はぁ~……、盛大な溜息ばかりが漏れ出す始末。

「リーダー」
「ん?」
「ファンの人が入口に来てるみたいです」
「………OK」

イベント効果も相まってファンがこうして出待ちしてくれるのは有り難いけれど。
元々アスリート気質の俺は、ファンサービスが苦手。
演技でもってファンへ感謝の気持ちを表すならまだしも……。

「キャァ~ッ!ジル様ぁ~」
「ジルぅぅぅ~~っ!!」

熱狂的なファンはどうもサインや握手では満足出来ないらしくて……。

「コンニチハ~」
「キャッ、カッコいい~~っ」
「ジル様ッ、ハグしてぇ~~」
「………アハハッ」

恋人ですら抱き締められないのに、こうして毎日ファンを抱き締める日々。
けれど、嫌な顔も出来ないから、『ジル』を演じきる。
この手のファンサービスを運営側に制限して貰いたいくらいだ。

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