Special Edition ②



春休みに突入し、連日の公演日は有り難いことに満員御礼。
小さい子供から年配の方まで、サーカスの魅力は年齢を問わない。

3月29日。
ナナに初めて会った日から丸8年。
今日で9年目を迎えた。

なのに、俺の隣にはナナはいない。
日曜日という事もあり、俺は朝から公演の準備に追われていた。

「リーダー?」
「ん?」
「ファンの人が差し入れ持って来てくれたみたいですよ」
「………ん」

差し入れも正直制限して貰いたい。
演技前のストレッチの時間まで削ってファンサービスするのは、正直苦痛でしかない。
だけど、サーカス団の為だから仕方なく、『ジル』の仮面を被ってファンの前に立つ。

満面の笑顔で『楽しみにしてます』と言われたら、やはり嬉しい。
『頑張って下さい』も『いつも応援してます』も嬉しいけれど。
公演が終わった後ならまだしも、開演前に呼び出されるのはちょっと……。

けれど、こういう支えがあってこそ、今の俺らがあるのだから。
やはり有難いのは言うまでもない。

会場整理の担当のスタッフに耳打ちしておいて、5分経ったら声をかけて貰えるようにしておいて。
ファンの前で『クールなジル』として振る舞う。

「ジルさん、そろそろ」
「OK.Sorry…」
「すみません、準備がありますので」

ファンに会釈し、その場を後にする。

「ありがとうございました」
「いえいえ、いつも大変ですね」

声掛けしてくれたスタッフにお礼を言い、テント奥へと急いで向かう。

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