Special Edition ②
明日の朝一番で行けばいいか。
どうせ、月曜日だから仕事だろうし。
仕事終わりに逢えればそれで十分。
そうと決まれば準備をしないと。
小さ目なキャリーケースに着替えと必要なものを詰めていた、その時。
部屋のドアがノックされた。
「……はい」
ファンの呼び出しじゃない事を祈りつつ、ドアをゆっくりと開けた、次の瞬間。
ドアの前に立っている人物に釘付けになった。
「来ちゃった♪」
「ッ!!……ナナ」
ニットのワンピースにトレンチコート姿のナナが抱きついて来た。
ナナの後ろを団員が横切る。
「ナナ、入って」
「うん」
部屋に招き入れ、しっかりと鍵を掛ける。
たまに、団員が俺らの邪魔をしに乱入してくることもあるから。
世界各国から寄り集まったサーカス団だから、フレンドリーな付き合いは必須なんだけど。
どうも、俺はそういうのが苦手で。
ナナとの時間を邪魔されたくなくて、部屋の鍵はいつも掛けている。
久しぶりの彼女のぬくもりに、心が満たされる。
「何で来たの?」
「飛行機」
「空港からは?」
「レンタカー」
「疲れてない?」
「全然。ジルに逢えたから」
胸に抱きつくナナ。
そんな彼女の髪を優しく撫でる。
「本当はね?朝早くから逢いたかったんだけどね?」
「ん?」
「今の時間、この時間が大事だと思って」
「え?………20時?」
「初めてジルに会った時間だよ?」
「あ、………ん」
ナナが今日という日を覚えてくれていただけでも嬉しいのに。
『20時』という時間まで覚えていてくれた事に胸の奥がジンと熱くなる。