Special Edition ②
「あ、疲れた時にドリンク飲んでね」
「え?……これ、ナナが?」
「うん」
「………何時に来たの?」
「お昼頃?ちょうど公演中の時に」
潜り込みのファンだと思っていたから、団員にでもあげようかと思ってたのに。
俺のことを心配してドアに掛けててくれただなんて。
「20時迄は逢うの我慢しなきゃと思って」
「ナナ……」
抱き付く彼女の髪を優しく撫でる。
こんな風に尽くされたらますますベタ惚れになるだろ。
「明日、松江城にでも行こうか」
「お、いいね」
「現存天守だから、復元なしの天守閣があるお城だよ」
「ホント?」
「うん」
「あと、出雲大社にも行こう?」
「神社?」
「縁結びで有名な神社なの」
「へぇ~」
ナナはいつも俺のことを気にかけてくれる。
自分が行きたい所を言ったっていいのに。
「ナナは行きたい所ないの?」
「………あるにはあるけど…」
「どこ?」
抱き付いた状態で見上げている彼女の視線が俺から逸れた。
その視線は彷徨うように泳ぎ始めた。
「ナナの仕事にもよるけど、次の移動の時だったら、1週間くらいなら取れるよ?」
「………うん」
今の島根県松江市から移動するタイミングでなら、暫く公演が無くなる。
正確には2~3週間空きが出来る。
旅行にでも行きたいのだろうか?
付き合い始めて近場にしか行ったことが無い。
サーカス団自体が日本中を転々と移動していることもあって、あえて旅行らしいことをしたことが無い。
「あのね?」
「ん」
「ジルの、……ご両親に会いたい」
「……あ、……ん」