Special Edition ②
俺はナナの涙に弱い。
パールのようなダイヤのような。
零れ落ちる涙が美しいと思えるほど綺麗に見えて。
初めて会ったあの日から。
彼女の涙を何回見ただろうか。
その度に心を射抜かれている。
彼女の心から射られた矢が、真っすぐと俺の左胸に突き刺さるから。
「ナナ?」
優しく髪を撫でるくらいじゃ、彼女の涙は治まりそうになくて。
背に回した手を手繰り寄せ、彼女を抱き締める。
「怒ったんじゃないから」
「……ホント?」
「ん、……嫉妬しただけ」
ラテン系の団員はノリが軽くて、スキンシップも多めで。
俺の婚約者だと分かっていても気安く触る奴もいる。
トラピーズのメンバーは俺が怖いのか、さすがにナナに触れようとはしないが。
他の演目の団員は、俺の素を知らない奴もいる。
どんなにナナのことを大事にしても、ほんの僅かな隙間から群がる蟻のように。
美人で仕事も出来るナナに気に入られたくて近づく奴は多い。
公演の無い休日だから、テント裏には団員が結構群がっている。
久しぶりの連休という事もあって、皆どこかに遊びに行くのか。
ガヤガヤと賑やかな笑い声が響く。
俺らのすぐ横にも、クラウンのポール夫妻が車の洗車をしている。
「ナナ?」
「……して?」
「ん?」
消え入りそうなナナの声がバイクのエンジン音で掻き消され、聞き取れなかった。
「……キス、して…」
「フッ」
さっきナナの肩に手を置いていたジャグラーのケントが先ほどの場所にいて、俺らを見ている。
ナナはそれに気づいたようで、俺を安心させるためなのか。
俺らのラブラブ具合を見せつけようとしているのかもしれない。