アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
事情を知る北川さんは、聞き上手でとても話しやすい。大都が色々話しをしたのもうなずける。
ひとりっ子の大都にとって、理想の兄のような存在なのかも知れない。

「母は自分の恋人優先で子供の頃、家に帰ってもひとりで寂しかったんです。……最近気づいたんですけど、自分が誰かに愛されることを心の隅で願っていながら、愛されるなんて無理だと諦めていたみたいで……相手を信じられないと言うよりも自分を信じられなかったんです」

「それで、傷つかないように無意識に自己防衛していた?」

「そうです。テリトリーを決めて、自分からは踏み出さず、相手には踏み込ませず、その分人との付き合い方は希薄になっていたのに疑問にも思わないで、そんなもんだろうなって……。でも、ある日、そのテリトリーにスルスルと入り込んだのが大都だったんです」

「大都さん、頑張ったんだ」

まるで身内を褒められたときのように北川さんは柔らかく微笑んだ。
私は心の内を打ち明ける恥ずかしさを隠し、タンブラーグラスの縁を指先でなぞり話しを続けた。

「それでも私の悪い癖で、何か理由を探しては、大都と長く続けられないんだろうなぁって、いつも考えていました」

「自分に自信が無くて、防衛線を張っていた?」

心配そうな瞳を向ける北川さんに、私はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「……そうです。いつ別れても仕方ないって、自分に言い聞かせて、少しでも傷つかないようにしていたんです。でも、大都は私と別れるなんて、微塵も考えていない。私を大切に想っていてくれたのがわかりました」

「ん、大都さんは由香里さんをとても大切に想っているよ」


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