アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
食事を終えた私たちは、お店で帰りのタクシーを呼んでもらい、それに乗り込んだ。
車窓から見える夜の街が光の尾を引いて景色が流れ出す。

「この先どうなるか、わからないけど、何か問題が起きても大都と話し合って、良い方向へむかうように努力していきます。北川さんにお話しを聞いていただいて気持ちが軽くなりました。今日は、たくさん迷惑をかけてしまってごめんなさい」

「謝らないで。僕は買い物に付き合って、ご飯を食べただけなんだから。まあ、着慣れない服で風通しは良かったけど」

 派手に太ももや膝のあたりが破けたダメージジーンズを履いている北川さんはクスリと笑い、おどけてみせる。
 その優しい気遣いが嬉しくて、私も顔をほころばせた。

「春とは言え夜の風は冷たいので、風邪を引かないでくださいね」

「そうだね。風邪を引いたら野郎に看病されることになるから、気を付けないと、居候の身はつらいよ。東京に長くいることになりそうだから、いいかげん部屋を探さないといけないな」

「あら、上京していらしたんですか?」

「福岡からね。実は一世一代の恋を追いかけてきたんだ」

 そう言って、北川さんはいたずらっぽくウインクをした。
 この穏やかな人が、一生のうちに二度とないと思うほどの恋を追いかけて、福岡から東京まで出て来たなんて、どんな恋だったんだろう。
 モテないんだと寂しく笑った様子を思い出すと、この恋は叶わなかったのかもしれない。

「……素敵な恋をされたんですね」
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