アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 大都から私の部屋に入る許可を取った北川さんは、今はリビングのソファーに腰を下ろしている。

 よくよく考えれば、この部屋は私の部屋なので、大都の許可など要らないはずだ。なんとなく腑に落ちない思いを抱えながら、淹れたてのコーヒーをトレーに乗せた。
 リビングに足を踏み入れたタイミングで、北川さんのスマホが着信を告げる。大都から折り返しで電話がかかって来たのだ。

「はい……ええ、週刊ScoopOneの茂木と言っていました。今日の会話はバッチリ録音してあります」

 リビングのローテーブルの上にコーヒーを置くと、通話中の北川さんはそれに気が付いて会釈をしてくれる。

「では、直ぐにデータを送ります。あと、少ししたら帰るから、大都さんはヤキモチ焼いていないで早く寝てくださいね」

 大都を揶揄うようなことを言った北川さんは、クスクスと笑いながら電話を耳から放す、漏れてくる大都の声は『北川さんも意地悪だな』と文句を言っている。北川さんは「ごめんごめん、じゃまた」とクスクス笑いのまま通話を切った。
 じゃれ合うふたりの仲の良い様子に、ほっこりして私も自然と顔がほころんでしまう。

 「いただきます」と、コーヒーに口をつけたあとで、北川さんは、電話の詳細を私に説明してくれた。

「直ぐにでも、事務所から週刊ScoopOneの編集部へ記事の捏造について情報を得たとクレーム入れる手はずになったそうです」

「そんなことが出来るの?」

「はい、TV局から付け回した挙げ句、移動の途中で降ろしたヘアメイク担当のスタッフをBACKSTAGEのHIROTOだと誤認して撮影。否定しているのにも関わらず、しつこくつきまとった。それに、HIROTO本人は札幌にいると確固たる証拠がある。親切にも事実確認した方がいいとアドバイスを上げたのに聞き入れ無かったのは、茂木という記者の責任ですし、音声データという証拠もありますから」

 タクシーを降りてからマンションに入るまでのやり取りを録音していたなんて、しっかりしている。それに私が聞きそびれた記者の所在もちゃんと聞き出していた。
 手際のよさに目を丸くする。

「音声データとか抜け目がなくて、すごいわね」

「証拠があれば、編集部としては、誤報をスクープとして掲載しないで済みますし、雑誌の広告スポンサーも失わずに助かったと思いますよ。まあ、茂木という記者は圧力がかかって閑職に回されるかもしれません」

「あの気持ち悪い記者に制裁が下るわけね。ちょっとスッキリしたわ」
 
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