アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
「その服のサイズが大丈夫だったか、私が確認したいんで、四の五の言わず着替えてください」

遠慮する北川さんをショップバッグごとドレッシングルームに押し込んで、無理やり着替えてもらう。(もちろん、私はドアの外だ)
そうでもしない限り、受け取ってくれないと思ったからだ。

 私の勢いに負けた北川さんは、あきらめて着替えをしてくれた。
 センタープレスが入ったグレーのスリムパンツに白いサマーセーター、ロング丈のジャケット、オマケにメトロハットの全身コーデだ。
 
「わあ、思っていたよりずっと素敵! サイズも大丈夫そうで良かったわ」

 思わず感嘆の声があがる。
 大都に扮しているときの服装も似合っていたけれど、今みたいに落ち着いた服装の方が、何倍もカッコよく見える。我ながら良きコーデができたと満足だ。

「こんなにしてもらって、返って悪いような……でも、ありがとう」

「いいんです。私が満足しているんですから! これなら風邪を引かないで済みますね」

「あはは、そうだね。おかげで安心して帰れそうだ。大都さんに報告した通り、そろそろお暇するよ」

「では、タクシーを呼びますね。遅くまで引き留めてしまってすみません。今日はありがとうございました」

 私はコンシェルジュへ連絡を入れ、念のため地下駐車場へ回してもらったタクシーに乗った北川さんを見送った。

「いろんなことが、ありすぎの一日だった。大都にメールしようかな……」

 そう、つぶやいてみたけれど、声が聞きたくなっていた。
 

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