アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
慌てて、スマホの着信ボタンをスワイプした。

『今日のデートは、どうだった?』

 開口一番そんなことを聞いてくる大都。
 北川さんから聞いて、大体の内容は知っているクセに私の反応を楽しんでいるみたいだ。
 声を聞きたいと思っていたけれど私の欲しかった言葉はコレじゃない。
 ホント、むかつく!

「素敵な男性をご紹介してくださり、ありがとうございました。(棒読み)」

『あはは、楽しかった?』

「すっごーい、楽しかった。背の高いイケメンとのデートはどこに行っても注目の的で、鼻高々だったわー。でも、事前に説明してくれても良かったんじゃない⁉ 待ち合わせ場所ですごく驚いたんだから」

 私は、嫌味を含めたクレームを入れる。

『ごめん、ごめん。北川さんを見た由香里がビックリするかなって、思ったら楽しくて……』

 案の定そんな返事が返ってきた。
 
「遠目で見たらそっくりで、確かにびっくりしたわ。でも、楽しんでいただけたようで何よりです」

 ちょっとムッとした声が出てしまった。でも、まったく気にしていないような明るい声が聞こえる。

『あはは、怒らない、怒らない』

「北川さんの変装にみんな騙されていたみたいで、女の子たちに声をかけられたり、盗み撮りされたり、プライバシーへの配慮が皆無で、ソワソワ落ち着かなかったわ。こんな状態が日常だなんて、大都も大変なのね」

 そもそも、大都が私の部屋に転がり込んで来たのも、自宅がファンに知られて帰れなくなったのが原因だった。有名税とはいえ、絶えず人目を気にしていないといけないのは、気が休まらないだろう。

『そうなんだ。応援してくれるのは嬉しいんだけど……たまに、BACKSTAGEのHIROTOじゃなくて、ただの真鍋 大都(まなべ ひろと)に戻りたくなるときがあるよ』
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