アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
落ち着かない気持ちを鎮めようと、窓の外へ視線を向けた。
重い雲が立ち込めた空は黒く塗りつぶされ、見慣れたはずの東京タワーの照明も心なしか、ひんやりとした色に見える。

「……おつかれさま」

 まだ、頭の中で「どうしょう」という言葉がグルグルとしていて、今の状況を伝えていいのか迷っている。

『声が沈んで聞こえるけど、具合が悪い?』

「ううん、実は……」

 と言いかけたとき、電話の向こうで『HIROTO、なにやってんだ? 早く戻って来いよ』とメンバーなのだろうか、大都を呼ぶ声が聞えた。『うるせー、直ぐ戻るからジャマすんな』と大都が応戦している。
 じゃれ合うような声の様子、大都の年齢や立場を考えると、「妊娠したかも」なんて迂闊に電話で話せる内容ではないと思いあたり、次の言葉が出こない。

「……」

『あっ、ごめん。うるさかったよな』

「大丈夫、忙しいのに電話してくれてありがとう」

『で、話し途中になったけど、”実は”なんだった?』

 こういうとき、大都は見逃してくれない。
 でも、今はとてもじゃないけど言えないと、咄嗟に言葉をすり替える。

「実は、店舗で働いている人に誘われて今日のライブ見に行ったの。楽しかったわ」

『えっ⁉ ホント? うれしいけど、気が付かなくてごめん。今度から席を用意するから言って』

「ふふっ、グッズもいっぱい買ってペンライト振ったりして、1ファンとして参加したから気にしないで」

上手く話しをそらせたとホッとしたのも束の間、大都の声がする。

『ライブ見るぐらい元気ならいいけど、本当に無理したらダメだよ。由香里は考え過ぎる時があるから心配だな』
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