アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 耳心地の良い大都の声をもっと聴いていたい。その声の優しさに、今抱えている不安を吐き出し甘えたくなる。
 
「今日のステージ、カッコ良かったよ。久しぶりに大都の姿を見れて、元気そうで安心した。でも、もっと近くに来て、抱きしめてもらいたい」

 こんな言葉が素直に言えるなんて、自分でも弱っているんだなと思った。

『ん、俺も抱きしめたい。抱きしめたまま眠りたい』

 ふたりで居ることに慣れた今、この部屋に独りで居るのが切なく感じられた。
 今すぐに帰って来てと言いたくなってしまう。でも、大人の分別がそれをじゃまする。
 
「……みんなが待っているんでしょう? 戻ってあげて」

『どうせ、バカ騒ぎしてるだけなんだから、焦って戻らなくていいんだよ』

「でも、私も明日仕事だから、そろそろ寝ないといけないの」

『わかった』

「おやすみなさい」

『由香里、愛しているよ。おやすみ』

 チュッというリップ音が聞こえて通話が切れた途端に、鼻の奥がツンとして、視界がだんだんとぼやけ始める。
 胸の奥がグチャグチャで、唇を噛みしめたまま立ち尽くす。
 窓の外の東京タワーが涙で滲んで見えた。
 
 
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