アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
朝一番で予約を入れたウィメンズクリニックで受付を済ませると、窓口で38と書かれた番号札を渡された。

待合室の長椅子に腰掛け、手持ち無沙汰な私は、備え付けの旅行雑誌をパラパラとめくる。それでも落ち着かずに辺りを見回した。待合室には診察待ちの人々、小さな子供連れた同年代の女性、若いカップル、そして、20代半ばの大きなお腹の女性がいた。

その女性は、目を細め、愛おしそうにお腹に手をあてている。大きなお腹の中に新たな生命が宿っている姿は、「尊い」と言う言葉しか浮かばなかった。
そして、まだ膨らみのない自分のお腹に手をあてる。
まだ、つわりも無く、自覚症状と言えば胸が張っているぐらい。自分が妊娠しているなんて、にわかに信じられなかった。
 
 いまだに「どうしょう」という言葉が頭の中を埋め尽くし、この先自分の身に起こる変化を上手く想像できずにいる。

 でも、簡易式の妊娠検査薬の結果を考えても、お腹の中に新しい命が宿っているのは間違いないだろう。
 
 看護師さんに呼ばれ、検査のための紙コップを渡される。トイレに行き、小窓の中に採取した紙コップを置いた。

 38番の方と放送がかかり、診察室に入る。
 年配の女医さんが「こんにちは」と柔らかく微笑む。「こんにちは、よろしくお願いします」と言った自分の声が、かすれていた。

 そう、この結果いかんで自分の人生が変わるのだ。緊張したって仕方ない。
 女医さんは、パソコンの電子カルテと手元の問診票を見比べたあと、私へ向き合った。

「岡本さん、検査結果ですが、妊娠の反応が出ています。問診票を拝見したところ未婚でいらっしゃるようですが、どうされますか?」
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