アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 都内のラグジュアリーホテルにある日本料理『禅』は、5年前と同じように凛とした佇まいで、少し緊張する。
 あのとき、この店に来たのは、私の母親と大都の父親の結婚報告だった。そして、私と大都が初めて出会った場所だ。

 窓の外の日本庭園に視線を移すと、緑の中にまだ固い蕾と花びらをほころばせた淡い桃色のシャクヤクが華やかに咲き誇っているのが見える。
 
 当時の大都はブレザーの学生服に、前髪をぼさっとさせて、ひょろりとした冴えない感じの男の子。それが、どうして、こんなにたくましくなのか、人体の神秘というか、生命の不思議だと、向かいに座る大都をしみじみと眺めてしまう。
 
「そろそろ来るかな……」

 ひとりごとのようにつぶやいた大都は、これから報告することを思ってなのか、緊張した面持ちで口元へ拳をよせ、軽く咳払いをした。
 
「そうね。おじ様が先だと思うわ」

「俺もそう思う」

 そう言って私たちは、顔を見合わせてクスリと笑う。
 緊張がほどけたところで、障子の向こうから仲居さんが「お連れ様がお見えになりました」と声がかかる。

 入って来たのは予想通り、大都の父親『真鍋芳明』だ。5年前から年を取っていないような印象で、スーツの似合うロマンスグレー。

「ふたりとも早いね」

 と細めた目尻に笑い皺が入り、大都が年を重ねたらこんな風に笑うのだろうと連想させられた。

「ご無沙汰しております」

 私は居住まいを正し頭を下げた。

「こちらこそ、ご無沙汰してしまって。体調は大丈夫ですか? あまり畏まらず楽にしてください」
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