アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

宵闇の街で

 仕事が終わり、ビルの外に出ると日が伸びたのか、ほの暗さの中に薄っすらと赤みの残る瞑色(めいしょく)の空。
 初夏のこの時期、夜風も爽やかだ。
 
「うーん、気持ちいい。少し歩きたい気分」

 何の気無しに複合施設へと足を進める。施設のオープンスペースにある植樹がライトアップアップされ、さっきより宵闇が深くなり始めた街に美しく映える。
 施設の入り口に差し掛かったところで、知っている顔を見つけた。

「先生!」

 私の声で振り返ったのは柏原正人だ。

「由香里、会いたかったよ。あれからどうしたのか、心配していたんだ」

 そうだった、大都から誕生日を教えてもらえずに、都合のいいお相手にされているような気がして、別れようとやけ酒を飲んだ日以来の再会だ。
 かなり酔っぱらって、醜態をさらしてしまった。忘れたい記憶がよみがえり、カァと頬が熱くなる。

「先日は、迷惑をおかけしてすみません」

「いや、楽しかったから気にしないで、それより、時間があるなら食事でもどうかな?」

「あ、ごめんなさい。この後、約束があって……」

 本当は約束なんてなかったが、つわりもあって、落ち着いて食べれそうもないから断らせてもらった。

「残念だ……あの……」

「はい?」

「この前の若い彼氏とは、まだ付き合いが続いているのか?」
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