アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 パソコンの画面に表示された予約状況の一覧。騒ぎのせいなのか、キャンセル通知が通常よりも多く入ってきている。

美容のまとめサイトに書き込まれた、いわれなき誹謗中傷。
いままで誠心誠意にお客様と向き合い、コツコツと積み上げて来た口コミ評価が、心無い書き込みによって、下がってしまったのだ。それが不安を煽りキャンセルに繋がっているのだろう。

それに顧客の中には有名人も多い。マスコミに目をつけられているお店へ来てまで、とばっちりの火の粉が降り掛かるのを嫌がる人もいる。

 人の噂も七十五日というが、この先しばらくは売上的には厳しい状態になりそうだ。
 場合によっては、経営規模を縮小して対応するようになるかもしれない。
 早めに銀行の担当者と相談した方がいいのだろうか、と悩んでしまう。

「はぁー。精神的に疲れる」

 愚痴を吐き出し、マグカップに口をつけた。ちなみに、体のために白湯を飲んでいる。
 すると、私用のスマホが短く震え、メールの受信をした。
 画面の通知を見ると大都からだ。

『迷惑かけてごめん。勝代さんにもお詫びを兼ねて連絡してある。後で、電話がかかってくると思う。今回の件、なるべく早く収束させるようにするからもう少し待っていてくれる?』

 スクープ写真の責任を感じた大都が私の見えないところで、たくさん無理をして火消しに回ってくれているのだ。
 ひとりじゃないと思うと、まだまだ頑張れそうな気がしてくる。

「ありがとう、私は大丈夫よ。だから無理や無茶をしないでね」

 送信っと、ポチッとボタンを押した。すると、間髪入れずにスマホから着信の音楽が鳴り出す。表示された名前は、母の岡本勝代だ。
 私は、慌ててスワイプする。

『由香里、今日はうちにいらっしゃい』

 藪から棒になんだろう? 母の電話は相変わらず一方的だ。
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