アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
「由香里は、もうひとつの命を抱えているんだから、もっとワガママ言っていいのよ。部屋ならあるから安心して居座ってね。出張中の安斎にもOKもらっているから遠慮は無用よ」
遠慮をしていた理由のひとつである母の4人目の再婚相手、安斎さんが出張中だと聞いて、ホッとしてしまったのはナイショだ。
それならと、母の言う通りたまには甘えさせてもらうことにした。
「ありがとう。実はムリしたせいか、お腹も張っていたの。悪いけどお世話になるわ」
私の言葉に母は眉尻を下げてオロオロとし始める。
「やだ、大丈夫なの? 病院に連絡して診察してもらったほうがいいかしら……」
「そんなに大げさにしなくても、寝れば治るわ」
「そう、でも無理は禁物。少しでもおかしいと思ったら我慢しないで直ぐに病院に連絡するのよ」
こんなにも母は心配症だったのかと、私は戸惑い目を白黒させてしまう。
いや、いままでイイ子で居ようとして、具合が悪くても大丈夫だと言い張っていた。意地を張らずに具合が悪いと伝えていれば、母はどんなに忙しくても、かいがいしく世話を焼いてくれたのかもしれない。
そのことに気付くまで、ずいぶん時間が掛かってしまったものだ。
「食事はとれる? 冷製パスタを用意してあるの。大丈夫そうなら、お腹の子供のためにも食べて栄養つけないとね」
「ありがとう。いただくわ」
ダイニングテーブルに用意されているのは、色も鮮やかなトマトとオクラの冷製パスタ。「いただきます」と口に運べば、サッパリとした味わいでつわりがある私でも食が進む。
母の気持ちのこもったパスタは、三ツ星レストランのパスタより美味しく感じられた。