アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 婦人科の予約に間に合わせるために、エレベーターに乗り込んだ。階数を示すランプを見ながら、無意識に張りのあるお腹に手を当ててしまう。
 
 自分のお腹の中に子供が居るというのは、成長が楽しみな反面、不安もいっぱいだ。
 平常時と異なる体の変化に戸惑い、時には様々な症状にも対応していかなければならない。

 よく、「妊娠は病気じゃない」というけれど、「通常の状態ではない」のだ。
「妊娠は病気じゃない、だから甘えるな」ではなく、「妊娠は病気じゃない、産むまでは身体の変化や不調を治す方法も特効薬もない状態、だから無理をしない、させない」と考えて動くのが正解だ。

 エレベーターを降りて、ビルのエントランスホールを歩き出す。何気なく時計を見ると予約時間の15分前。婦人科までは、徒歩5分も掛からないだろう。
 予約にちょうど良い時間に着きそうだと顔を上げた。すると、遅番で出勤予定の福田さんがエントランスへ入って来るところだ。
 
「あっ、オーナー。おはようございます。お出かけですか?」

「福田さん、おはよう。ちょっと出かけるわね」

と言った瞬間、ズンッと体が重くなり、ふらついた。

「オーナー、顔色悪いですよ。大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫……」

 クラッと視界が白くかすみ、意識が遠のいて行く。
 

 
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