アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 面会時間はとっくに過ぎた午後10時前、病室でひとりで居てもやることがない。絶対安静というのもなかなか辛いものだなっと、点滴に繋がれている腕を見て、ふぅっとため息が漏れる。

「こんな私が、子供にとって良い母親になれるのかな?」

 産むと決めたからには、最善を尽くすつもり。けれど、いまは無事に産んで上げられるのかもおぼつかない。
 やっと芽生えたばかりの母性は、まだまだ未熟だと思う。
 
 まだ、膨らみのないお腹に、そっと手をあてた。

「とにかく無事で良かった。あと半年は、この中に居てね。会えるのを楽しみにしているから」
 
 10ヵ月という妊娠期間は、お腹の中で赤ちゃんを育てるだけでなく、母親になるための心の準備期間なのかもしれない。

「あんまり、良いお母さんに為れないかもしれないけど、がんばるわ。だから、仲良くしてね」

 ひとしきり、お腹に語りかけていると気持ちが安らぐ。これも母性のなせる業なのか。
 などと考えていると、スマホが震える。
 HIROTOが出演する予定のトーク番組が始まると通知のお知らせだ。

 ベッド脇にあるチェストに手を伸ばし、リモコンを操作した。
 ちょうど、番組のオープニングシーンで、背広姿の大御所漫才師とベテラン人気アイドルが司会進行を担当で、おしゃべりを始めた。

『なんと、今日は急遽、生放送です。ゲストは、BACKSTAGEのHIROTOさんです!』

 ベテランアイドルの紹介で、拍手が沸き起こり、画面中央にスポットがあたる。そこへ、グレーの細身スーツに身を包んだHIROTOが颯爽と現れた。



 
< 181 / 211 >

この作品をシェア

pagetop