アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 それは、私の予想とは違い、色情報を廃棄したグレースケール、すなわちモノクロームの写真だ。
 
 余分な物を排除した写真は、バランスよくついた筋肉が濃淡で表現され、芸術作品のように見える。
 私は、ヌードという言葉の意味を思い出していた。
 ネイキッド(むき出しの裸体)、フレッシュ(肉の塊としての裸体)とは一線を画す、神話を題材とした絵画のような美術的ヌード(観賞用の裸体)だ。

「綺麗……」

 そして、そのページに書かれている文字が視界に入った。【modération】は、私の経営するエステサロンの名前。
 そう、この雑誌で最も注目が集まるシーンで、modération の広告が打たれている。
 以前、大都が私にスポンサーになってと言っていた話しは、このことだったのだ。

 スクープの新聞記事は抑えきれなかった。
しかし、記事の内容を打ち消すためのテレビ出演。私との関係が良い印象になる発言をし、尚且つ、この広告に注目が集まるような仕掛けをしていた。

 私のためにこれほどのことをしてくれたなんて……。
 そう思いあたると胸が熱くなる。
 情報量が多すぎて、写真を見つめたまま固まる私の耳に、母の弾んだ声が聞こえて来た。

「本当に綺麗に撮れているわ。ヒロくんてば、文字通り一肌脱いだのね」

 揶揄うようにニヤニヤする母の持っている雑誌に、耳を赤くした大都が手を伸ばす。

「勝代さんっ! 俺の裸ばっかり見てなくていいから。ほら、勝代さんがスポンサーになってくれたページもあるから、ちゃんと見て!」

 大都に何を言われようとも大人しく従う母じゃない。

「はいはい、減るもんじゃないし、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない。ふふっ。由香里ってば、愛されて良いわねぇ」

 と、今度は私へニヤニヤと揶揄う矛先を向けてくる。

 この、クソババァ……。
 久しぶりに母への悪態が脳裏を過る。

 


 
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