アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
「こんのクソ野郎!」

私は声を上げ、藤森さん(改め、藤森)の脛に蹴りを食らわせる。
黒づくめの男に全神経を集中させていた藤森は、まんまと私のハイヒールの一撃をモロに受け、その場に倒れ込んだ。

「女を口説き落とすなら、力ずくはヤメなさい。じゃないと痛い目見るのよ」

私の言葉に顔を上げた藤森は、脛を抱えながら、痛みで顔を歪め目に涙を浮かべて、壊れたオモチャのようにコクコクとうなづいている。

「あはは、俺の出る幕ないじゃん。お姉さん、強えー!」

黒づくめの男は、言わずもがな大都だ。
私は最大の疑問を口にした。

「君はどっから湧いてきたの?」

「話しは後で……。タクシー待たせて居るから帰ろう」

確かに、往来での立ち回りに野次馬も集まり始めている。
 黒づくめの男が、今はときめくBACKSTAGEのHIROTOだとバレたら、スクープになるかも知れない。

うなずいた私の手を引き、大都は歩き出した。
さっき、藤森に腕を掴まれたときは、嫌悪感ばかりだったけれど、今は大都の大きな手の温かさを感じていた。

無事、タクシーに乗り込み車が緩やかに走り出すと、耐えかねた大都が肩を震わせ笑い出す。

「ぷっ、あはは、お姉さんってば、口悪いなぁ」

「別にいいじゃない。それより、なんでタイミング良く現れたの?」

「ホント、たまたま。直ぐそこで仕事だったんだ。帰りのタクシーで何気に窓の外を見たら、様子のおかしいカップルが居て、それが、お姉さんだったから驚いたよ」

 赤坂という土地柄、テレビ局もあるから偶然というのウソではないだろう。

「ありがとう。助かったわ」

素直に御礼を言ったのに大都はまた笑い出す。

「あはは、姫が強過ぎて、ナイトにすら成れなっかたけどね」
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