アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

まちがいとか、まちがいじゃないとか

「今日こそは、遅刻しないように早めに行こう」

 仕事を終えた今、急いでいるのは友人の愛理と待ち合わせをしているからだ。
 大都の部屋にベッドを入れてもらってから10日あまりが過ぎ、今日はお礼を兼ねての食事会。
 いつも遅刻気味の私は日頃の反省を込めて、時間早めに待ち合わせをしているレストランを目指して、夜の帳が降りた街中を歩き始めた。
 春の夜は思いのほか、外気がひんやりと感じられ、花冷えと言う言葉を思い出す。
 施設のオープンスペースに植えられた花々が彩り鮮やかに咲いている。
 中でもライトアップされた桜がとても綺麗で、その美しさに感傷的にさせれた。
 
「出会いと別れの季節ね」

 風花の舞う中をくぐり抜けると、レストランが入っている複合施設の入り口が見えてきた。
 駅が直結されているせいもあって人通りが多い。道行く人は足早に施設へ向かっている。

「由香里」

 人混みの中から、不意に自分を呼ぶ声が聞こえて顔を向けた。
 視線の先に懐かしい人を見つける。
 私より3つ年上だから31歳になったのか、優し気な雰囲気はそのままに、青年だった人はスーツの似合う大人の男性に変わっていた。
 高校時代に家庭教師でもあり元カレだった、柏原正人だ。

「先生……」

「久しぶりだな。元気そうで安心した」

「お久しぶりです。先生もお元気そうで帰国されていたんですね」

「ああ、今月やっと帰って来た。……電話番号変えたんだな」

 と昔と変わらぬ微笑を向けられ、表面上は落ち着て話をしているけれど、私は動揺していた。
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