アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 あー、今日は気持ち良く愛理とおしゃべりする予定なのに、よりにもよって元カレに会うなんてツイていない。

 心の中で愚痴りながら予約したレストランに到着した。
 今日は、先日のお礼もかねているから、少し奮発してローストビーフ専門店だ。店頭で名前を告げると2名様用の個室に通された。
 こぢんまりとした個室は、落ち着いて食事と会話を楽しむのに打って付けの作りで、気に入っている。
 程なくして、時間に正確な愛理が到着した。
 
「ごめんね。由香里、お待たせしちゃった?」

「ううん、私も着いたばかりなの。ぜんぜん待っていないから安心して」

 真面目な愛理とは性格も違うのに、とても話しやすい。彼女の誠実な人柄が好きなんだと思う。
 コース料理とワインを注文して一息つくと、愛理は私の様子を窺うように話し出す。

「この前の家具の使い心地はどう?」

「本当、急なお願いして悪かったわね。おかげで助かったわ。ベッドの硬さも私好みで、ぐっすり眠れてイイ感じ」

 すると、愛理がふふっと悪戯を思いついた子供のように笑う。

「客室のベッドに由香里も寝たんだ」

 あっ、なんたる失言。
「くっ!!」

「ふふっ、よかった。安心できる人が出来たんだね。おめでとう」

 そう言って、愛理は朗らかに笑う。
 私は観念して胸の内を吐き出した。

「安心とはかけ離れている相手のような気がするんだけど」
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