アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

さまざまの事を思ひ出すかな

数日前、咲き誇っていた桜の花は散り、今では新しく芽吹いた緑の葉に姿を変えていた。

大都の香りがする部屋に帰りたくなくて、時間潰しに複合施設へ足を向けた。
人混みの中で、独りであることにホッとする。
恋愛脳になっていた頭をリセット出来そう。

 大都にとって特別な存在になったと、いつの間にか期待していた自分に呆れかえる。
 ずっと年上の私は、若い大都にしてみれば、誕生日すら一緒に祝う資格のない、取るに足りない存在だったのだ。

ファンがHIROTOに理想を抱き夢見ていたように、私も大都の特別だと夢を見てしまった。
やっぱり、やっかいな恋なんてするもんじゃなかった。
年齢ばかり重ねて、上手くやれない自分が嫌いだと、苛立ち紛れに髪をかき上げる。

人の流れに乗り足を進め、複合施設にたどり着く。エントランスはライトアップされた花が飾られている。それを眺める余裕もないほど、みんな足早に家路に急ぐ時間だ。
エスカレーターで下り、地下にある駅の改札前にでた。
改札手前の壁には、BACKSTAGEの2ndアルバムの大きな広告が出ていた。

人の流れから外れ、足を止めて広告を見上げる。
黒い背景の中でBACKSTAGEのメンバー7人が並んでいる。みんなそれぞれ魅力的だ。
でも、どうしたってHIROTOに目が行く。人を引き付ける存在感があるのだ。

誕生日が来て21歳になった大都は、これから世界がどんどん広がって行く。
その中で私の優先順位など低いはずだ。

今だけの関係だと割り切って、気持ちに整理をつけよう。

緒にいる時間を楽しんでいるうちに先の景色が見えてくると愛理に言われたけれど、期待をすればした分だけ、傷が大きくなる。

はぁ、と大きなため息をついて振りかえった私の視線の先に知っている姿を見つける。

「由香里」

私を呼ぶ声がして、その方向へ振り返った。
< 78 / 211 >

この作品をシェア

pagetop