アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
「そんな泣きそうな顔で言うなよ。好きなら無理にやめなくていいんじゃないか?」

笑顔のつもりでいたのに泣きそうな表情をしていたなんて思わなかった。気持ちを無理に抑え込んでも上手く繕えない私は、どれだけ大都を好きなんだろう。
でも、好きでもどうしようも無いことだってある。彼の中で私の存在が軽いのを知ってしまったのに、いつまでも関係を続けてもみじめになるだけだ。
あと少しだけ、甘い時間を味わって終わりにするつもりでいる。
細く息を吐き出し、話題をかえた。

「あの……お店、私の知っている所でいいですか?」

そう言って、HIROTOの広告に背を向けて歩き出し、さっき降りて来たエスカレーターを今度は上り始めた。
私の後ろ段に正人が立っている。エレベーターの段差もあり顔が近い。優しい瞳が懐かしさを思い出させた。

「誘って置いて悪い。日本へ戻って来ても、浦島太郎状態で……戸惑ってばかりだ」

「ずっとアメリカへ行って居たから仕方ないですよ。東京は再開発されて随分様変わりしました。こんなこと言うと年寄り臭いですよね」

「まだ若いのにそんな風に言わない。三十路を越えた人がここに居るんだから傷つくでしょ」
 と正人は自分を指さす。

「あら、女の28歳もビミョーなお年頃なんです」

おしゃべりをしながら、複合施設の1階にある和風 創作料理のお店に入った。窓際の席に通され、向かい合せに腰を下ろすと、正人は興味深そうにメニューを眺めている。とりあえずのビールを頼んで乾杯すると、正人は満足そうに笑う。

「食事のときに、日本に帰って来て良かったって思うよ」

「帰って来て良かったんですか?向こう(アメリカ)に金髪の女のコ置いて来たんじゃ無いんですか?」

9年前、短い手紙で別れを告げられ、日本に置いて行かれた私。このぐらいの嫌味は許されるはずだ。
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