飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
「これね」


 入江さんはさっき私に見せてくれた口紅をもう一度ポケットから取り出した。


「なくしたと思ってたんだ。 盗まれてたっぽい。 一部の女子にねたまれてんだよね、私。 なんか彼氏取られたとか言われて、身に覚えないんだけどさー。 ほんと女子って男が絡むと陰湿っつーか、性格悪くなるよね。 月寄さんも気をつけなよ?」


 そう朗らかな表情で私に言うと、入江さんは私に鞄を渡して、「じゃ」と手を挙げた。


「えっ、あっ、待って……!」


 私は再び背中を向けていた入江さんを、無計画に引き留めた。


「ん? まだなんかある?」

「あ……その、えっと……」


 せっかく、せっかく自分のことを分かってもらえる人に出会えた。

 私は入江さんと、もっと……


 ……そうだ




「なっ、仲良くなりたいからっ! 話そう……‼」




 満を持して吐き出された私の大きな声が、廊下にこだました。


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