飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
✧˙⁎⋆
 
 
 

 私の足は無意識のうちに猫の(しん)と会った繁華街の方へと向かっていた。


「ハァッ、ハァッ」


 呼吸を乱れさせながら小さな猫の姿を探す。


 煌々と輝くカラオケ店や居酒屋の看板。

 楽しそうにはしゃぐ男子高校生の笑い声。

 家路を急ぐサラリーマンと、喫煙所から漂ってくる煙草の匂い。

 
 どこにも(しん)はいない。

 
 私の横を、大きなトラックがブロロロ……と通り過ぎていった。

 ……車に、轢かれたり、とか……ないよね?

 路地裏の、野生みのある猫の目と目があって、寒くもないのにぶるっと体が震えて足を止めた。


 駅の時計は七時十八分になろうとしていた。

 それはあの日、病院で動かなくなったおばあちゃんを見た時刻だった。

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