飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
 その低い声に身がすくんで、ヒュッと喉が鳴る。
 
 私は、『幻聴であれ』と願いながら振り返る。


「今、(しん)の声がした」


 残念ながら、幻聴ではなかった。


「…………キョン」

 
 そこにたたずむキョンが、目を大きくして私を見ている。


「まさか今、(しん)と繋がってる……?」


 キョンは瞬きもせず、これ以上ないくらい顔を強張らせてまっすぐこちらに歩いてくる。

 私は慌ててスマホを閉じて後ずさった。


「え? えっと、なに、かな? なんのことかな?」


 どんどん距離を詰めてくるキョンに、私は大量の冷や汗を吹き出して目を泳がせる。


「月寄」


 そしてとうとうキョンが私のすぐ目の前に来て、バスを背にした私の顔の横に手をつき、私の逃げ場をなくした。


「どういうことか教えて」

「ふ……ふへへ」


 私のなけなしのごまかし笑いは、今のキョンにはとうてい通用するわけもなく。


「……教えて」


 そう言ったキョンの切れ長の目は、今まで見たことないくらいに光がなく、深い深い、黒色だった。




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