飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
 私はパスタソースを手に取った。

 それをひとまず耐熱皿にあけておいて、鍋にたっぷりお水を入れて火にかける。

 まだ静かな鍋をぼーっと眺めながら、金曜日にキョンが言ってた言葉を思い出す。


 『(しん)は一途だよ』


 ……(しん)がいなくなってから

 たくさんたくさん、考えた。

 もしかしたら、なにか理由があるんじゃないかって。

 今までの(しん)が本当で、どうしようもない理由があって私から離れたんじゃないかって。

 でも、もし、もし本当にそうだったとしても


『そうだよ』

『紗英と付き合ってる』


 (しん)は、紗英を選んだ。

 それも、簡単には覆らないような、強い意志で。
 
 
「……」


 私はぐつぐつと煮立った鍋に塩を適当に入れて、パスタを入れる。

 瞬時に柔らかくなって沈んでいくパスタたちを、菜箸を使ってさらに押し込み、軽く混ぜる。

 タイマーはセットしない。

 しばらくそのままボーッと鍋の中で踊るパスタを眺めてから、パスタをつついて柔らかさをチェックして、一本をつまんで食べてみる。


 ……ゆですぎた。


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