飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
 パスタを湯切って、お皿に盛り、電子レンジで温めておいたパスタソースをかける。

 それをフォークと一緒に机に持っていって、手を合わせる。


「いただきます」


 私は湯気の立つパスタをくるくるとフォークに巻いて、口に運ぶ。


「……」


 口の中のものを全て飲み込んだ後、私はフォークを置いた。


 『愛をたくさんこめましたから』


「……愛が、足りないんだ」


 いつの間にか当たり前になっていた無遠慮に絡まってくる足も

 一緒に手を合わせてする「いただきます」も

 私がこぼした弱音を受け止めてくれた穏やかな笑顔も


 全部、愛だった。

 私にとっては愛だった。


 ……ポタッ。

 フォークの上に落ちたのは、私の目からこぼれた行き場のない気持ち。
 

「っ……、ぅ」


 出しても出しても、なかなか枯れない、(しん)への気持ち。
 

 きっと、(しん)が私にくれたもの全部が嘘だったわけじゃない。

 私が(しん)に抱いた気持ちも、嘘じゃない。

 でも、だからこそ、


「うぅ〜……っ」


 なかったことにしなくちゃいけない。

 (しん)のために、紗英のために。

 この気持ちを、なかったことにしなくちゃいけないんだ。



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