飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
「月寄、ちょっと話が……うわ」


 ……キョンくん。 女の子の顔見て〝うわ〟はひどくない?

 
「……ちょっと話?」

 かける言葉が見つからないといった表情のキョンの代わりに、私は用件を急かす。

「あー、うん。 後で場所変えてー……」

 と、キョンが話している途中で、すぐそこの扉がガラガラッと開いた。


「おっはー」


 直後に聞こえた気だるげな声に、私とキョンは動きを止めた。

 反射的に見上げた先の、その気だるげな佇まいに心臓が凍り付いた。


「…………っ」


 嘘だ。

 信じられない。

 私は思わず、その名前を口からこぼした。


「心……?」


 そこには、心がいた。

 人間の姿で、制服に身を包んだ、心。
 
 私の声にピクッと反応した心が、無機質な目で私を見下ろした。

 その目が家を出る前に最後に見た心の目と重なって、息ができなくなる。


 少しの間を置いて、心は口角を緩やかにあげた。



「……おはよう。〝月寄さん〟」



 他人行儀なその笑顔に、サァ、と、血の気が引く音を聞いた。
 

< 243 / 327 >

この作品をシェア

pagetop