飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
 心はずっと、そうやって紗英に縛られてたんだ。

 人に毒を盛ることも厭わない紗英を私から遠ざけるために、自分が紗英の彼氏になることで私のことを守ってくれてたんだ。


「……返して」

「ん?」

「心を、返して」


 怒りと、恐怖。

 二つの相乗効果で、私の声はか細く震えた。


「はぁ?」


 相変わらず口角の上がった紗英の瞳孔が、開くのが見えた。


「あはは!バカ?バカなの?返すってなに、元々心は紗英のだし!」

「わかってるんだよね、心の気持ち」


 紗英のこめかみがピクッと痙攣する。


「……マウント?うっざ。関係なくない?いま心は紗英のものなんだから」

「関係あるよ! 好きな人が苦しんでるの見て、なんとも思わないの……⁉」

「うわ! うわうわ、出たぁ! そういうのむり、ほんと気持ち悪ーい。いらないからーそういう上から目線のきれいごと」


 紗英が私に近付いて、私の髪をすくった。


「まぁわかるよ?心、かっこいいもんね」


 その髪をさわりながら私の周りをゆっくりと歩く。


「優しいし、かしこいし、いざというとき絶対助けてくれる王子様みたいだもん、好きになっちゃうよね。でもね、だめ。心のお姫様は私なの。だからね、」


 そして紗英が背中側に回った時、首筋に鋭い痛みが走った。


「!」

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