飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
 さっきまで男の人を威嚇してた猫ちゃんだよね……?

 その態度の豹変っぷりに、私は驚きを隠せない。


「なぁーん」


 ……それにしても、変な鳴き声。

 思わず笑いが込み上げた。

 
「ふふ。きみ、面白いね」

「なぁーん」


 心なしか嬉しそうにする猫ちゃんに、なんだかとても癒された。

 しゃがんで撫でてあげようかと思った時、五時を報せる鐘が街に鳴り響いた。

 
『よほどの理由がない限り、六時までには家に帰ること』

 
 これは、私が一人暮らしを許してもらう代わりにお父さんとした約束。

 私はもう一度ビルを見上げた。

 知らねえよって言われたけど……一応見てみよう。

 私はおそるおそるビルの中に足を踏み入れて、階段を上がって無機質な扉を開けてみる。

 中をのぞくと、がらんとしていて、何もない。

 本当に何もない。

 その上の階にも行ってみたらドアは開かなかったけど、ガラス窓があって中を覗けた。
 
 そこは潰れた風俗店の跡地のようで、やっぱり誰もいる気配はない。

 
 ……もしかしたら私はここで、さっきの男の人に襲われるはずだったのかもしれない。

 そう思うとぞっとした。


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