飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
 俺はそっと立ち上がって凛から離れ、廊下に続く扉へ向かう。

 はぁ……まさかトイレ行くだけなのにこんな苦労するとは思わなかった。

 ちなみに人間に戻ってから猫になるまでには一分〜三分ほど。

 その時によってまちまちみたいだ。

 猫になる前にはやく用を足さなければ、と思った、そのときだった。


「……やっ」

 
 !

 
「やだ……っ」


 凛の苦しそうな声がして、振り返る。


「や……行かな……」


 ……泣いてる。

 凛が、泣いてる。


「……凛……?」


 凛の閉じた目からツツ……と頬に涙が伝っていくのを見て、俺は息を止めた。
 
 
「行かないで……おばあ、ちゃん……」


 ……おばあちゃん……?


「ここに……いて……」

「……」


 


『ごめんね猫ちゃん』

『君がいたら、きっと寂しくないんだろうけど』


 昨日、凛が言った言葉を思い出した。


「――……わかった」


 凛にそう小さく返事をした俺は、ひとまずトイレに行って凛のお父さんの服を借りてから、凛の部屋に戻る。

< 93 / 327 >

この作品をシェア

pagetop