Flower~君の美しい記憶の中で今日も生きていたい~
残酷だ。

私に生きることを望んだ彼は誰よりも死を望んでいて。彼に生きていてほしいと願う私が、彼の命を唯一奪える。


震える自分の体を抱きしめた。ぽつぽつと制服のスカートに涙が落ちる。


今この瞬間も恭介さんは苦しんでいる。


そこで思った。

彼は死を望んでいるのにどうして朝私が近づくとこを拒否したのだろう。
私が生まれ変わりだと気づいた時に口付けを請わなかったのだろう。


まだ彼を生かすものがあるのではないか。


私は恭介さんを殺せない。だからせめて彼に寄り添ってあげることはできないだろうか。



私はゆっくりとした足取りで夜叉さんの部屋を出て恭介さんの部屋の扉をノックした。


相変わらず応答はない。扉を開く。室内は閉め切っていたせいで朝より暑くなっていた。


今度は慎重に。慌てず。彼が拒否したら身を引く。


恭介さんの荒い呼吸は変わっていない。私は深呼吸して一歩ずつ近づいた。


「夜叉さんから黒薔薇の呪いについて聞いたよ」


激痛に耐える彼の体が大きく震えた。

ワイシャツに朝止めてあげられなかった血が滲み、さらに濃い赤が腹の傷から出ている。痛みを耐えるために噛み締めたその左腕から血がぽたりぽたりと滴っていた。
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