悲恋の大空
そして結果発表の時。



[二階堂先生]
 「えー……第89回、土屋(つちや)校文化祭の劇の演目は……『白雪姫』に、決定しましたー!」



 ドキッ。



「大空&卯月」
 「「あっ」」



 なんと言う事だ、私達の案が劇の演目に選ばれてしまった。


 嬉しいけど自分が言った事に焦点を置かれると、なんかちょっと気恥(きはずか)しくもある。



[永瀬 里沙]
 「おー良かったね!あんたの案でしょ?」



 里沙ちゃんは当人(とうにん)の私達より笑顔で喜んでいる。



[朝蔵 大空]
 「う、うん。あ、当たっちゃいましたー……」



 『ちょっと待った!』と言いたい所だけど、絶対言えない空気だよなー。


 クラスの皆も反対する人特にいないみたいだし……。


 逃げ道が無い。



[二階堂先生]
 「よし、とりあえずホームルームは終わるぞー。朝蔵と……あと卯月は(あと)で職員室に来てくれ、じゃ」



 あれ?もしかして今、私達呼ばれちゃった?



[永瀬 里沙]
 「職員室だって、行ってきなよ」


[朝蔵 大空]
 「あ、うん。卯月君も行こうか?」



 私は職員室まで向かう際、卯月君も一緒に誘う。



[卯月 神]
 「はい」



 もうそろそろ道は大丈夫だとは思うけど、心配だから念の為、職員室まで卯月君も連れて行こう。



[朝蔵 大空]
 「なんだろうね」


[卯月 神]
 「さぁ……?」



 職員室に呼ばれるなんて超久し振りだなぁ、多分怒られるとかではないとは思うんだけど。


 何故か、(すこー)しだけ、嫌な予感がするんだよね。



[二階堂先生]
 「さっきの白雪姫、お前らふたりの案だよな?」


[卯月 神]
 「はい」


[朝蔵 大空]
 「はい……」



 あーどうか私の嫌な予感が当たっていませんように。



[二階堂先生]
 「お前ら、『言い出しっぺの法則』って知ってるか?」



 ニヤッと笑う二階堂先生。



[朝蔵 大空]
 「うっ……」


[卯月 神]
 「……?分かりません」



 卯月君の方は『言い出しっぺの法則』の意味が分かってないようだが私は1秒も経たずに、と言うか……先生がその言葉を言い終わる前にそれを理解してしまった。


 先生が私達に何を頼もうかとしている事を。



[二階堂先生]
 「この機に、お前達ふたりには主役をしてもらおうと思ってるんだが……」



 あー誰か夢だと言って……。



[卯月 神]
 「えっと……」


[朝蔵 大空]
 「じ、辞退させて下さい!」



 きっと誰も主役なんてやりたがらないからこんな強引な決め方をせざるを()ないんだろうな。


 土屋校の伝統、恐るべし!



[二階堂先生]
 「朝蔵が白雪姫、卯月が王子……でどうだ?もちろん逆でもありだけど」



 って!先生ってば全然話聞いてないし!!



[卯月 神]
 「僕が王子……朝蔵さんの?」



 卯月君が視線を二階堂先生から私の方に移して、その瞳を微かに輝かせる。



[朝蔵 大空]
 「それってもう決まった事なんですか……?」


[二階堂先生]
 「ああ、ごめんな」



 "ごめんな"って……その表情からして、大して悪いと思ってなさそうだな。


 私達はそれだけ聞いて職員室を後にした。



[卯月 神]
 「朝蔵さん、さっきのは?」



 廊下の途中で卯月君が私に聞いてきた。



[朝蔵 大空]
 「私達、劇の主役になっちゃったみたいだね……」



 どうしよう、『白雪姫』のお話は凄く好きだけど、演技なんかした事無いし、私が主役の白雪姫とかめっちゃ()ずい……。


 だけど『言い出しっぺの法則』とか言われたら何故か逆らえない……これが、社会に生きる人間の(さが)



[卯月 神]
 「……」



 卯月君の表情はどこか不安げだった。



[朝蔵 大空]
 「ごめん」



 ああ、決まっちゃった事をいつまでもウジウジしてても仕方無いよね!


 大丈夫だ。


 だって私、この春から《《主人公》》になったんだもの!



[卯月 神]
 「……朝蔵さん?」


[朝蔵 大空]
 「が、頑張ろう!私も一緒に頑張るからさ!頑張って演技しよっ?」



 私は『頑張る』と言う単語を連呼する。



[卯月 神]
 「は、はい……」



 その調子で私達は教室に戻って行った。



[永瀬 里沙]
 「ひゃー!大空〜主役おめでとー!やったね!やっと目立てるじゃんっ!」



 別に私は目立ちたい訳じゃないけど……。


 里沙ちゃんも喜んでるみたいだし、まあいっか!



[朝蔵 大空]
 「わ、悪目立ちにしないように頑張るよっ……!」



 私は"ビビってませんよ"、と冷静を装う。



[永瀬 里沙]
 「でー、王子は…………」


 里沙ちゃんが私の隣に座っている卯月君の方を見る。



[卯月 神]
 「……?」


[永瀬 里沙]
 「君か」



 里沙ちゃんが卯月君の顔をまじまじと見る。


 出た、里沙ちゃんの品定めの目付き。


 (はた)から見ててもこの目付き、凄く怖いんだよね。



[永瀬 里沙]
 「うーん、王子感って言うの?ちょっと華やかさが足りないけど。地味な大空との相性は、隣に立った時の印象を見ると良いんじゃない?うん!」


[卯月 神]
 「……えっ」



 うわっ!里沙ちゃん、それ以上は辞めた方が良いよ!!



[朝蔵 大空]
 「ちょーっと!里沙ちゃん!私は良いけど、卯月君に失礼だよ!」


[永瀬 里沙]
 「あははーごめんごめん、でも応援してるねー!練習とか色々頑張ってこっ!!」



 その頃、教室内の遠くの方で……。



[狂沢 蛯斗]
 「だ、誰なんですかあの人!」


[巣桜 司]
 「えっと……前の席替えで、狂沢君と席を交換してくれた方じゃなかったでしたっけ?」



 狂沢君と司君がこっちをコソコソと見て来ている事に気付く。



[狂沢 蛯斗]
 「……?ああ、影薄すぎて忘れてました。あー!なんであんな影の薄い人が大空さんの王子役なんかにっ……!!」


[巣桜 司]
 「あはは……聞こえちゃってると思います……」



 うん、私にもバッチリ聞こえてまーす。


 まったく、里沙ちゃんも狂沢君も、発言に遠慮が無いんだから……。


 ともかく、これからかなり大変な事になりそーだなぁー。



[卯月 神]
 「……うるさいですね」


[朝蔵 大空]
 「えっと……気にしなくて良いよ。ただ、羨ましいんだと思うよ?」



 私は卯月君になけなしのフォローを送る。



[卯月 神]
 「……?それは貴女の自慢ですか?」


[朝蔵 大空]
 「え?」



 自慢ではないけど……。



[卯月 神]
 「この前までなんでも無い人間だったくせに、調子に乗らないで下さい」


[朝蔵 大空]
 「えぇ……」



 う、卯月君も毒舌っぽいよね。


 でも、そんな嫌な気はしないなぁ……。



[卯月 神]
 「モテモテ人生は気持ち良いですか?」


[朝蔵 大空]
 「わ、私がモテモテ!?なっ……」



 この平凡な私がモテモテなんて、無い無い!そんなの無い!!



[永瀬 里沙]
 「確かに!大空の周りって、イケメンばっかで羨ましいったらありゃしない!!ほら……まず、S氏を筆頭に〜……」



 S氏って嫉束君の事だよね……?



[朝蔵 大空]
 「ちょっと!ちょっと!」



 周りの女の子達に勘づかれたら面倒臭いんだってば!


 また呼び出されちゃう……。



[卯月 神]
 「S氏……って、誰ですか?」


[朝蔵 大空]
 「あ!そう言う芸能人がいるの〜とっても面白いんだっ!」



 私は咄嗟に思い付いた言い訳で誤魔化そうとする。



[卯月 神]
 「げ、ゲイノウジン?それはなんの生き物ですか?」



 あれっ?私、芸能人って言っただけなんだけど……卯月君とはたまに話が噛み合わないなー……。



[永瀬 里沙]
 「ぷっ……大空、それは無理があるって!そうねー……まあそこにストーカー気味の狂沢君とか、あと巣桜君も大空の事頼りにしてるねー。あと、あの訳アリの笹妬吉鬼とも仲良いみたいじゃん?あとは…………まあ色々っ!」



 里沙ちゃんってば、なんか勝手に長々と喋ってるけどなんなのー?


 隣にいる卯月君はそんな話着いて行けないって!!



[卯月 神]
 「はい、そのようですね」



 って、卯月君意外とそこ乗っかるんだ!?



[永瀬 里沙]
 「おっ、そうだよね。最近の大空、ちょっとモテすぎよね!」


[卯月 神]
 「はい、モテすぎです」



 な、なんでそこで話通じちゃうの……?



[朝蔵 大空]
 「も、もう辞めて下さい……」



 ふたりとも勝手な事言っちゃって……恥ずかしいったらありゃしない。



[永瀬 里沙]
 「……」



 え、怖……里沙ちゃん、急に静かになっちゃって。


 これは絶対何か企んでる顔だ。



[永瀬 里沙]
 「ねぇねぇ、大空が白雪姫で、卯月君が王子役なんだよね?」


[卯月 神]
 「……?」


[朝蔵 大空]
 「そうだけど?」


[永瀬 里沙]
 「じゃあじゃあ!ふたりでデートとかしてみない?!」


[朝蔵 大空]
 「デート!?な、なんでぇ?」



 里沙ちゃん、デートって……私達別に付き合ってないよ?


 なのになんでデートなの??



[永瀬 里沙]
 「卯月君もさ、どこから来たのか知らないけど。たまには外で遊んでみるのも良いんじゃないかな?大空と一緒にっ!♪」


[朝蔵 大空]
 「ちょ、ちょっと待って。『じゃあデートしてみない?』の意味が分からないんだけど……」


[永瀬 里沙]
 「カップルの役をやるならそれなりに親睦を深めた方が良いに決まってんでしょ!それなら、"デート"してみるしかないでしょ!?」



 私は卯月君の方を見る、すると卯月君も私の顔を見ていた。



 ゴクリ……。



[朝蔵 大空]
 「えっと、つまりね?ふたりで外に出掛けてみない?って事なんだけど……」


[永瀬 里沙]
 「デート!!」


 里沙ちゃんはどうしてもデートと言う事にしたいみたいだ。



[朝蔵 大空]
 「ど、どうかな?」



 私は卯月君に恐る恐る聞いてみた。


 どうかな、卯月君見た感じインドアっぽいし絶対そう言うの得意じゃないよね?



[卯月 神]
 「僕は構いませんよ」


[朝蔵 大空]
 「あわ……」



 承諾されちゃったー!!



[永瀬 里沙]
 「きゃっ♡」



 里沙ちゃんは萌えているようだった。


 里沙ちゃん、もしかして私達に何か勘違いしてないかな?



[朝蔵 大空]
 「よ、良かった……じゃあ場所は私が考えとくよ。それで良いよね?」


[卯月 神]
 「はい、お願いします」


[永瀬 里沙]
 「卯月君!大空に任せっぱなしなのもダメだからね!」


[卯月 神]
 「は、はい」



 里沙ちゃん、きっと卯月君が私の事好きだって思ってるんだろうな。


 だから変にくっ付けようと……?


 まあ初対面の時のあの行動は今も謎なんだけど。


 デートか……何気に男の子とデートなんて、初めてかもしれない!


 なんか私、変にドキドキして来て……嫌だ。



[永瀬 里沙]
 「で?デートはどこ行くの?」


[朝蔵 大空]
 「い、家帰ってから考えるよっ……!」



 やだ私……卯月君の事、なんとも思ってないと、思ってたのに。


 卯月君とはただ隣の席ってだけで……。


 里沙ちゃんが変な風にするから、なんか意識しちゃうって言うか……。


 私、変になってる??


 ……。



[リン]
 「今夜こそ、話さなくては……」





 「空の他人」おわり……。
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