悲恋の大空
第11話「火炎ボール」
朝、卯月はいつものように学校に登校してくる。
[卯月 神]
(何やら朝蔵さんが『ダブルデート』と言うものを本気で企んでるようですが、まさかあの"本"が本当に効いたのでしょうか?)
ドン!
[卯月 神]
「あっ、ごめんなさい」
卯月は曲がり角で誰かとぶつかってしまう。
反射的に謝ってしまう卯月の目の前に居るのは……。
[原地 洋助]
「すみません」
この男、原地洋助。
[卯月 神]
「貴方は……」
卯月はびっくりしつつもぶつかった原地と目を合わせる。
[原地 洋助]
「ちょっと、お話。よろしいですか?」
卯月よりほんの少し背が高い原地が、僅かに卯月の事を見下ろす。
[卯月 神]
「お……おぉ」
……。
[永瀬 里沙]
「ねーねー、もうあの人で良いじゃん?」
今は里沙ちゃんと一緒に登校して来て、校門をくぐって校舎までの道を歩いている所だ。
[朝蔵 大空]
「あぁ、リンさんは……ちょっと……かなり変わってる人だから」
それにあの人天使だし、バレたらきっとマズい事になるんじゃないかな?
だから里沙ちゃん達には出来れば近付けたくなーい……。
とんでもないトラブルに繋がる気がする。
[永瀬 里沙]
「顔さえ良ければ良い!!!」
[朝蔵 大空]
「……ううん!ダメ!!絶対仁ノ岡くんに会ってもらうんだから!」
早く里沙ちゃんに仁ノ岡くんを見せたい!
[永瀬 里沙]
「はぁ、なんで学校来ないのかねー」
不尾丸くんが言う話には、彼は同じ学校に通ってはいるのだが、滅多に来ないらしい。
[朝蔵 大空]
「それは……分からない。何か事情があるのかもしれないけど」
学校に来ない理由、何か悩みがあるのかな。
もしかして『いじめ』……?
そう考えたら胸が苦しくなる。
勝手な想像だけど、もしそうだったら私ひとりが助けるには難しい問題だ。
[永瀬 里沙]
「……学校に来ない、ね…………」
一緒に歩いていた里沙ちゃんが私の後ろで立ち止まる。
[朝蔵 大空]
「ん?」
私は里沙ちゃんの方を見て振り返る。
[永瀬 里沙]
「あ、いや……大空はさ、学校楽しい?」
[朝蔵 大空]
「えっ?何、急に?」
[永瀬 里沙]
「いや別に?なんとなく」
里沙ちゃんはそう言って気まずそうにそっぽを向く。
なんでそんな事今聞くんだろ……?
[朝蔵 大空]
「うーん…………楽しい、よ!」
[永瀬 里沙]
「それは、どうして?」
[朝蔵 大空]
「えーと、うん、やっぱり卯月くんが転校して来てくれた辺りから、私の毎日に《《彩り》》が出たと言うか」
[永瀬 里沙]
「う、うん」
[永瀬 里沙]
(また卯月……)
[朝蔵 大空]
「それから自分自身が人生楽しみたい!って気持ちに気付いた、みたいな?」
[永瀬 里沙]
「大空……」
私の言葉に、里沙ちゃんは安心しきった表情を見せる。
[朝蔵 大空]
「それに何より、里沙ちゃんのおかげ!」
[永瀬 里沙]
「え?……ふふ、嬉しい事言ってくれるじゃない」
[朝蔵 大空]
「ふふっ!」
私達は顔を見合わせて笑い合う。
[永瀬 里沙]
「……」
[永瀬 里沙]
(確かに卯月が来てから、大空は明らかに変わった。もちろん、良い方向に!でも、卯月……って改めて思うとなんなんだろう)
[朝蔵 大空]
「あーもー!一体どこに居るんだろー、仁ノ岡塁く〜ん」
頭をワシャワシャと掻きむしる大空。
[永瀬 里沙]
(あいつの事が1番分からない。大空はあいつにゾッコンだけど、あの人はなんで大空の事が好きなの?影薄いし、いつもボケーッとしてて大空以外の人間とも関わろうとしない)
[朝蔵 大空]
「せめて写真とかあればなー、撮る……?あーでも盗撮はダメだしー」
[永瀬 里沙]
(ダブルデート……出来るか分かんないけどその時に、卯月、あいつに聞いてやろう!大空とどうする気なのか、詳しく!)
その時、里沙が異変に気付く。
[永瀬 里沙]
「……?」
バサバサバサっ……。
[朝蔵 大空]
「どうしたの?里沙ちゃん」
[永瀬 里沙]
「なんか誰かに見られてる気がして……」
里沙ちゃんは急に後ろを気にしだして、周りをキョロキョロとする。
[朝蔵 大空]
「えっ!」
[永瀬 里沙]
「気のせいかな……」
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃん、霊感ある方だっけ?」
幽霊的な何かじゃないよね……?
[永瀬 里沙]
「無いけど。んーまぁただの気のせいよね、教室行こっ」
[朝蔵 大空]
「うん行こう!早く卯月くんに会いたい!待っててねー!愛しの卯月くーん!!」
私は卯月くんに会いに、無我夢中に教室まで突っ走る。
[永瀬 里沙]
「あ、あんたほんとに変わった……変わってるわねー」
……。
[朝蔵 大空]
「えっ!!!卯月くん休み!!?」
[永瀬 里沙]
「みたいね」
朝のホームルームが終わっても卯月くんの席が未だ無人のままだ。
[朝蔵 大空]
「そんなぁ」
今日一日卯月くんと会えないなんて……。
耐・え・ら・れ・な・い!
耐えられない!!!
[木之本 夏樹]
「あいつが今日居ないって事は……」
[文島 秋]
「あぁ、いくらでも朝蔵ちゃんにアタックし放題だ」
[木之本 夏樹]
「ゴクリ……」
[文島 秋]
「さぁ、行ってこ……」
[狂沢 蛯斗]
「大空さん!顔色が悪いようですが!」
[巣桜 司]
「げ、元気出して下さい!大空さん!」
積極的に大空に話し掛けて行く狂沢と巣桜。
[木之本 夏樹]
「あぁ!?」
[文島 秋]
「おーっと木之本またしても先を越されたー!」
[木之本 夏樹]
「う、うるせぇ!お前はふざけるな!」
木之本くん達、何騒いでるんだろ……。
仲良いなぁ。
あー心配してくれるのはとっても嬉しいけど、今は正直ほっといてほしいなー。
今日はもう、モチベーションが出ません。
さよなら、今日の私。
[朝蔵 大空]
「かぁー」
私の体から海の底に沈んでいくように力が抜けて行く。
[永瀬 里沙]
「ちょっとあんた!マジでしっかりして!さっきまでの威勢はどうしたのよ!」
ダラけて椅子から雪崩落ちそうな私を抱え、私のほっぺたを叩く里沙ちゃん。
私は僅かな力でバッグからケータイを取り出す。
[朝蔵 大空]
「うぅ、『卯月くん大丈夫?風邪でもひいた?』っと」
私は卯月くんのケータイに心配のメッセージを送る。
[永瀬 里沙]
「……連絡無かったの?相変わらず冷たいわねー、あいつ。『今日は休む』ぐらい言ってやれば良いのに」
[朝蔵 大空]
「うん、でもそれが卯月くんだから」
[永瀬 里沙]
「何その理屈ダル」
私はある事を思い出す。
[朝蔵 大空]
「あっ、1限目なんだっけ?」
[永瀬 里沙]
「あっ!今日男女合同じゃね」
[朝蔵 大空]
「えー!体育〜!?更に無理なんですけど〜」
どうやら1限目は男女一緒に行われる体育らしい。
[朝蔵 大空]
「休んじゃおっかな〜……」
[永瀬 里沙]
「馬鹿な事言ってんじゃないわよ!さ、着替えるよ」
この精神状態で体育は無理〜!!
……。
その頃の卯月達……。
ドンッ!!!
大きな音を立てて卯月の背後の壁に手を着く原地。
[原地 洋助]
「だからっ!付き合ってるのか付き合ってないかで答えてくれれば良いですってば!!」
[卯月 神]
「うっ……お、落ち着いて下さい」
[原地 洋助]
「……そうじゃなくて。何度も言わせないで下さいよ。卯月先輩でしたっけ?大空先輩と付き合ってるのか今すぐ教えて下さい」
[卯月 神]
「……」
[原地 洋助]
「ほらまたすぐ黙る!」
[卯月 神]
「だって……」
[卯月 神]
(本当は今すぐ、付き合ってますって言いたい、僕だって……)
[原地 洋助]
「あぁ?ボクは回りくどいのが大嫌いなんです。答えて下さい!」
[卯月 神]
(考えろ、考えなくては、この人が納得してくれる答えを)
[卯月 神]
「君は朝蔵さんの事が好きなんですか?」
[原地 洋助]
「……?そうですけど。あの、今話してほしいのは……!」
[卯月 神]
「僕も今」
[原地 洋助]
「えっ?」
[卯月 神]
「僕も今、彼女に恋をしています!」
[原地 洋助]
「は、はい?」
[卯月 神]
「まだちゃんと付き合ってません」
[原地 洋助]
「付き合ってない?えっ、ちゃんとって何」
[卯月 神]
「だから!お互い良い恋敵として頑張りましょう、よろしくお願い致します!」
[原地 洋助]
「ほんとに付き合ってないの?」
[卯月 神]
「はい。狂沢くんとかが勝手に妄想して僕と朝蔵さんが恋人だなんて言ったんでしょう。朝蔵さんと僕は……少し仲が良いだけですよ」
[原地 洋助]
「ふ……ふーん、分かった。付き合ってないなら良いよ。"恋敵"ね。ふんっ、了解」
卯月の答えに納得がいった原地は、解放するように卯月の傍から離れる。
[卯月 神]
「でも朝蔵さんと現在1番近しい異性は僕ですのでではさようなら失礼します」
[原地 洋助]
「えっ?」
卯月は振り返ってスタスタと早歩きで逃げるように歩いて行く。
[原地 洋助]
「あ、ちょ、ちょ、待てよ」
原地が引き留めようとしてもそれを卯月は無視して行ってしまう。
[原地 洋助]
「な、なんだよあの捨て台詞……」
……。
[朝蔵 大空]
「やれば終わるやれば終わる」
[永瀬 里沙]
「そうよー大空、その意気よー」
秋には体育祭もあって、その前に《《林間合宿》》もあったよねー。
もー!体力無い私に厳しい行事が秋に詰め込まれてて今から嫌になる〜!
早く夏休みにならないかな……。
あ、その前に期末テストもある。
[朝蔵 大空]
「あぁ、暑い……汗かく」
[卯月 神]
「すみません、遅れました」
[朝蔵 大空]
「!?」
今、卯月くんの声が聞こえた気がする。
[体育教師]
「おう卯月、具合でも悪かったか?」
[卯月 神]
「そうなんです」
声がした方を振り向くと、先生と卯月くんが話している姿が見えた。
[永瀬 里沙]
「あれ?居るじゃん。休みじゃなかっんだー、良かったね大空」
[朝蔵 大空]
「卯月くん!!♡」
今日は皆んなでサッカーをやるようで……。
[巣桜 司]
「むんっ」
あ、司くんがゴールキーパーやらされてる……。
[狂沢 蛯斗]
「……」
相手チームの狂沢くんがボールと共にゴール前まで駆けて来る。
[巣桜 司]
「こ、来いっ……!」
[狂沢 蛯斗]
「巣桜くん、退きなさい」
[巣桜 司]
「え……」
狂沢くんがゴールに立つ司くんに退けるように命令する。
[巣桜 司]
「あ、はい、すみません……」
司くんはそれを真に受けてあっさり膝を揃えて退いてしまう。
!?
司くん!!?
[文島 秋]
「今だ!狂沢くん!!」
○●○!!!ゴーーール!!!○●○
[文島 秋]
「ナイスだよ狂沢くん!!」
[狂沢 蛯斗]
「ふふん、これくらい朝飯前ですよ」
いやぁ、普通にズルだよふたりとも……。
[木之本 夏樹]
「な……に、してんの?」
[巣桜 司]
「ハッ!ぼ、ぼくは何を……す、すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!!」
[木之本 夏樹]
「お、面白いから良いけどさ……」
司くんは木之本くんに何度も頭を下げて謝る。
[永瀬 里沙]
「木之本〜!あんたが点取り返しなさいよー」
[木之本 夏樹]
「えぇ、なんで俺が」
[文島 秋]
「良いとこ見せれば惚れてくれるかもしれないしな」
[木之本 夏樹]
「!!」
その瞬間、木之本くんがボール目掛けて走り出した。
[男子A]
「うわぁ!!なんか急に木之本が本気出し始めたぞ!」
[女子A]
「きゃあ!私こわーい!!」
次は私らのチームかぁ、やりたくないなぁ。
私は辺りを見渡す。
[朝蔵 大空]
「あっ」
[卯月 神]
「……」
前方の少し離れた所に、卯月くんが座っているのが見えた。
私はそれにそろそろと近付いて行く。
[朝蔵 大空]
「……ん」
卯月くんの傍に寄って、後ろから私は卯月くんの背中側の服の裾を掴んで引っ張った。
[卯月 神]
「……っ!朝蔵さん?」
[朝蔵 大空]
「……」
って、恥ずかし!
授業中なのに、皆んなが見てるかもしれないのに何やってんだろ私!
[卯月 神]
「……ダメですよ」
[朝蔵 大空]
「朝いなかったから寂しかった」
[卯月 神]
「そうですか……ごめんなさい」
そう言われたと思ったら、私の頭に卯月くんの手が伸びて来る。
[朝蔵 大空]
「へっ?」
私、もしかして今卯月くんに頭触られて、まさか撫でられてる!?
一体どこでそんな事覚えたの卯月くん!
[文島 秋]
「君達、もう次のゲーム始まるよ?」
[大空&卯月]
「「!!?」」
[文島 秋]
「イチャついてる場合じゃ……」
[卯月 神]
「いえ、朝蔵さんの頭に《《毛虫》》が這っていたので、取っていただけです」
[文島 秋]
「ふーん、そ」
文島くんはニヤつきながら木之本くんの所に戻って行った。
毛虫!!?
[朝蔵 大空]
「へっ!!?どこどこ!?」
[卯月 神]
「……貴女の髪は黒いから、熱が……熱い」
[朝蔵 大空]
「!!」
しまった、私の髪が黒いせいで卯月くんに熱い思いをさせてしまった!!!
私、明日から丸刈りにしまーーす!!!
つづく……。
[卯月 神]
(何やら朝蔵さんが『ダブルデート』と言うものを本気で企んでるようですが、まさかあの"本"が本当に効いたのでしょうか?)
ドン!
[卯月 神]
「あっ、ごめんなさい」
卯月は曲がり角で誰かとぶつかってしまう。
反射的に謝ってしまう卯月の目の前に居るのは……。
[原地 洋助]
「すみません」
この男、原地洋助。
[卯月 神]
「貴方は……」
卯月はびっくりしつつもぶつかった原地と目を合わせる。
[原地 洋助]
「ちょっと、お話。よろしいですか?」
卯月よりほんの少し背が高い原地が、僅かに卯月の事を見下ろす。
[卯月 神]
「お……おぉ」
……。
[永瀬 里沙]
「ねーねー、もうあの人で良いじゃん?」
今は里沙ちゃんと一緒に登校して来て、校門をくぐって校舎までの道を歩いている所だ。
[朝蔵 大空]
「あぁ、リンさんは……ちょっと……かなり変わってる人だから」
それにあの人天使だし、バレたらきっとマズい事になるんじゃないかな?
だから里沙ちゃん達には出来れば近付けたくなーい……。
とんでもないトラブルに繋がる気がする。
[永瀬 里沙]
「顔さえ良ければ良い!!!」
[朝蔵 大空]
「……ううん!ダメ!!絶対仁ノ岡くんに会ってもらうんだから!」
早く里沙ちゃんに仁ノ岡くんを見せたい!
[永瀬 里沙]
「はぁ、なんで学校来ないのかねー」
不尾丸くんが言う話には、彼は同じ学校に通ってはいるのだが、滅多に来ないらしい。
[朝蔵 大空]
「それは……分からない。何か事情があるのかもしれないけど」
学校に来ない理由、何か悩みがあるのかな。
もしかして『いじめ』……?
そう考えたら胸が苦しくなる。
勝手な想像だけど、もしそうだったら私ひとりが助けるには難しい問題だ。
[永瀬 里沙]
「……学校に来ない、ね…………」
一緒に歩いていた里沙ちゃんが私の後ろで立ち止まる。
[朝蔵 大空]
「ん?」
私は里沙ちゃんの方を見て振り返る。
[永瀬 里沙]
「あ、いや……大空はさ、学校楽しい?」
[朝蔵 大空]
「えっ?何、急に?」
[永瀬 里沙]
「いや別に?なんとなく」
里沙ちゃんはそう言って気まずそうにそっぽを向く。
なんでそんな事今聞くんだろ……?
[朝蔵 大空]
「うーん…………楽しい、よ!」
[永瀬 里沙]
「それは、どうして?」
[朝蔵 大空]
「えーと、うん、やっぱり卯月くんが転校して来てくれた辺りから、私の毎日に《《彩り》》が出たと言うか」
[永瀬 里沙]
「う、うん」
[永瀬 里沙]
(また卯月……)
[朝蔵 大空]
「それから自分自身が人生楽しみたい!って気持ちに気付いた、みたいな?」
[永瀬 里沙]
「大空……」
私の言葉に、里沙ちゃんは安心しきった表情を見せる。
[朝蔵 大空]
「それに何より、里沙ちゃんのおかげ!」
[永瀬 里沙]
「え?……ふふ、嬉しい事言ってくれるじゃない」
[朝蔵 大空]
「ふふっ!」
私達は顔を見合わせて笑い合う。
[永瀬 里沙]
「……」
[永瀬 里沙]
(確かに卯月が来てから、大空は明らかに変わった。もちろん、良い方向に!でも、卯月……って改めて思うとなんなんだろう)
[朝蔵 大空]
「あーもー!一体どこに居るんだろー、仁ノ岡塁く〜ん」
頭をワシャワシャと掻きむしる大空。
[永瀬 里沙]
(あいつの事が1番分からない。大空はあいつにゾッコンだけど、あの人はなんで大空の事が好きなの?影薄いし、いつもボケーッとしてて大空以外の人間とも関わろうとしない)
[朝蔵 大空]
「せめて写真とかあればなー、撮る……?あーでも盗撮はダメだしー」
[永瀬 里沙]
(ダブルデート……出来るか分かんないけどその時に、卯月、あいつに聞いてやろう!大空とどうする気なのか、詳しく!)
その時、里沙が異変に気付く。
[永瀬 里沙]
「……?」
バサバサバサっ……。
[朝蔵 大空]
「どうしたの?里沙ちゃん」
[永瀬 里沙]
「なんか誰かに見られてる気がして……」
里沙ちゃんは急に後ろを気にしだして、周りをキョロキョロとする。
[朝蔵 大空]
「えっ!」
[永瀬 里沙]
「気のせいかな……」
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃん、霊感ある方だっけ?」
幽霊的な何かじゃないよね……?
[永瀬 里沙]
「無いけど。んーまぁただの気のせいよね、教室行こっ」
[朝蔵 大空]
「うん行こう!早く卯月くんに会いたい!待っててねー!愛しの卯月くーん!!」
私は卯月くんに会いに、無我夢中に教室まで突っ走る。
[永瀬 里沙]
「あ、あんたほんとに変わった……変わってるわねー」
……。
[朝蔵 大空]
「えっ!!!卯月くん休み!!?」
[永瀬 里沙]
「みたいね」
朝のホームルームが終わっても卯月くんの席が未だ無人のままだ。
[朝蔵 大空]
「そんなぁ」
今日一日卯月くんと会えないなんて……。
耐・え・ら・れ・な・い!
耐えられない!!!
[木之本 夏樹]
「あいつが今日居ないって事は……」
[文島 秋]
「あぁ、いくらでも朝蔵ちゃんにアタックし放題だ」
[木之本 夏樹]
「ゴクリ……」
[文島 秋]
「さぁ、行ってこ……」
[狂沢 蛯斗]
「大空さん!顔色が悪いようですが!」
[巣桜 司]
「げ、元気出して下さい!大空さん!」
積極的に大空に話し掛けて行く狂沢と巣桜。
[木之本 夏樹]
「あぁ!?」
[文島 秋]
「おーっと木之本またしても先を越されたー!」
[木之本 夏樹]
「う、うるせぇ!お前はふざけるな!」
木之本くん達、何騒いでるんだろ……。
仲良いなぁ。
あー心配してくれるのはとっても嬉しいけど、今は正直ほっといてほしいなー。
今日はもう、モチベーションが出ません。
さよなら、今日の私。
[朝蔵 大空]
「かぁー」
私の体から海の底に沈んでいくように力が抜けて行く。
[永瀬 里沙]
「ちょっとあんた!マジでしっかりして!さっきまでの威勢はどうしたのよ!」
ダラけて椅子から雪崩落ちそうな私を抱え、私のほっぺたを叩く里沙ちゃん。
私は僅かな力でバッグからケータイを取り出す。
[朝蔵 大空]
「うぅ、『卯月くん大丈夫?風邪でもひいた?』っと」
私は卯月くんのケータイに心配のメッセージを送る。
[永瀬 里沙]
「……連絡無かったの?相変わらず冷たいわねー、あいつ。『今日は休む』ぐらい言ってやれば良いのに」
[朝蔵 大空]
「うん、でもそれが卯月くんだから」
[永瀬 里沙]
「何その理屈ダル」
私はある事を思い出す。
[朝蔵 大空]
「あっ、1限目なんだっけ?」
[永瀬 里沙]
「あっ!今日男女合同じゃね」
[朝蔵 大空]
「えー!体育〜!?更に無理なんですけど〜」
どうやら1限目は男女一緒に行われる体育らしい。
[朝蔵 大空]
「休んじゃおっかな〜……」
[永瀬 里沙]
「馬鹿な事言ってんじゃないわよ!さ、着替えるよ」
この精神状態で体育は無理〜!!
……。
その頃の卯月達……。
ドンッ!!!
大きな音を立てて卯月の背後の壁に手を着く原地。
[原地 洋助]
「だからっ!付き合ってるのか付き合ってないかで答えてくれれば良いですってば!!」
[卯月 神]
「うっ……お、落ち着いて下さい」
[原地 洋助]
「……そうじゃなくて。何度も言わせないで下さいよ。卯月先輩でしたっけ?大空先輩と付き合ってるのか今すぐ教えて下さい」
[卯月 神]
「……」
[原地 洋助]
「ほらまたすぐ黙る!」
[卯月 神]
「だって……」
[卯月 神]
(本当は今すぐ、付き合ってますって言いたい、僕だって……)
[原地 洋助]
「あぁ?ボクは回りくどいのが大嫌いなんです。答えて下さい!」
[卯月 神]
(考えろ、考えなくては、この人が納得してくれる答えを)
[卯月 神]
「君は朝蔵さんの事が好きなんですか?」
[原地 洋助]
「……?そうですけど。あの、今話してほしいのは……!」
[卯月 神]
「僕も今」
[原地 洋助]
「えっ?」
[卯月 神]
「僕も今、彼女に恋をしています!」
[原地 洋助]
「は、はい?」
[卯月 神]
「まだちゃんと付き合ってません」
[原地 洋助]
「付き合ってない?えっ、ちゃんとって何」
[卯月 神]
「だから!お互い良い恋敵として頑張りましょう、よろしくお願い致します!」
[原地 洋助]
「ほんとに付き合ってないの?」
[卯月 神]
「はい。狂沢くんとかが勝手に妄想して僕と朝蔵さんが恋人だなんて言ったんでしょう。朝蔵さんと僕は……少し仲が良いだけですよ」
[原地 洋助]
「ふ……ふーん、分かった。付き合ってないなら良いよ。"恋敵"ね。ふんっ、了解」
卯月の答えに納得がいった原地は、解放するように卯月の傍から離れる。
[卯月 神]
「でも朝蔵さんと現在1番近しい異性は僕ですのでではさようなら失礼します」
[原地 洋助]
「えっ?」
卯月は振り返ってスタスタと早歩きで逃げるように歩いて行く。
[原地 洋助]
「あ、ちょ、ちょ、待てよ」
原地が引き留めようとしてもそれを卯月は無視して行ってしまう。
[原地 洋助]
「な、なんだよあの捨て台詞……」
……。
[朝蔵 大空]
「やれば終わるやれば終わる」
[永瀬 里沙]
「そうよー大空、その意気よー」
秋には体育祭もあって、その前に《《林間合宿》》もあったよねー。
もー!体力無い私に厳しい行事が秋に詰め込まれてて今から嫌になる〜!
早く夏休みにならないかな……。
あ、その前に期末テストもある。
[朝蔵 大空]
「あぁ、暑い……汗かく」
[卯月 神]
「すみません、遅れました」
[朝蔵 大空]
「!?」
今、卯月くんの声が聞こえた気がする。
[体育教師]
「おう卯月、具合でも悪かったか?」
[卯月 神]
「そうなんです」
声がした方を振り向くと、先生と卯月くんが話している姿が見えた。
[永瀬 里沙]
「あれ?居るじゃん。休みじゃなかっんだー、良かったね大空」
[朝蔵 大空]
「卯月くん!!♡」
今日は皆んなでサッカーをやるようで……。
[巣桜 司]
「むんっ」
あ、司くんがゴールキーパーやらされてる……。
[狂沢 蛯斗]
「……」
相手チームの狂沢くんがボールと共にゴール前まで駆けて来る。
[巣桜 司]
「こ、来いっ……!」
[狂沢 蛯斗]
「巣桜くん、退きなさい」
[巣桜 司]
「え……」
狂沢くんがゴールに立つ司くんに退けるように命令する。
[巣桜 司]
「あ、はい、すみません……」
司くんはそれを真に受けてあっさり膝を揃えて退いてしまう。
!?
司くん!!?
[文島 秋]
「今だ!狂沢くん!!」
○●○!!!ゴーーール!!!○●○
[文島 秋]
「ナイスだよ狂沢くん!!」
[狂沢 蛯斗]
「ふふん、これくらい朝飯前ですよ」
いやぁ、普通にズルだよふたりとも……。
[木之本 夏樹]
「な……に、してんの?」
[巣桜 司]
「ハッ!ぼ、ぼくは何を……す、すみません!すみません!すみません!すみません!すみません!!」
[木之本 夏樹]
「お、面白いから良いけどさ……」
司くんは木之本くんに何度も頭を下げて謝る。
[永瀬 里沙]
「木之本〜!あんたが点取り返しなさいよー」
[木之本 夏樹]
「えぇ、なんで俺が」
[文島 秋]
「良いとこ見せれば惚れてくれるかもしれないしな」
[木之本 夏樹]
「!!」
その瞬間、木之本くんがボール目掛けて走り出した。
[男子A]
「うわぁ!!なんか急に木之本が本気出し始めたぞ!」
[女子A]
「きゃあ!私こわーい!!」
次は私らのチームかぁ、やりたくないなぁ。
私は辺りを見渡す。
[朝蔵 大空]
「あっ」
[卯月 神]
「……」
前方の少し離れた所に、卯月くんが座っているのが見えた。
私はそれにそろそろと近付いて行く。
[朝蔵 大空]
「……ん」
卯月くんの傍に寄って、後ろから私は卯月くんの背中側の服の裾を掴んで引っ張った。
[卯月 神]
「……っ!朝蔵さん?」
[朝蔵 大空]
「……」
って、恥ずかし!
授業中なのに、皆んなが見てるかもしれないのに何やってんだろ私!
[卯月 神]
「……ダメですよ」
[朝蔵 大空]
「朝いなかったから寂しかった」
[卯月 神]
「そうですか……ごめんなさい」
そう言われたと思ったら、私の頭に卯月くんの手が伸びて来る。
[朝蔵 大空]
「へっ?」
私、もしかして今卯月くんに頭触られて、まさか撫でられてる!?
一体どこでそんな事覚えたの卯月くん!
[文島 秋]
「君達、もう次のゲーム始まるよ?」
[大空&卯月]
「「!!?」」
[文島 秋]
「イチャついてる場合じゃ……」
[卯月 神]
「いえ、朝蔵さんの頭に《《毛虫》》が這っていたので、取っていただけです」
[文島 秋]
「ふーん、そ」
文島くんはニヤつきながら木之本くんの所に戻って行った。
毛虫!!?
[朝蔵 大空]
「へっ!!?どこどこ!?」
[卯月 神]
「……貴女の髪は黒いから、熱が……熱い」
[朝蔵 大空]
「!!」
しまった、私の髪が黒いせいで卯月くんに熱い思いをさせてしまった!!!
私、明日から丸刈りにしまーーす!!!
つづく……。