悲恋の大空
第12話「デスデイズ」
朝の出来事。
[原地 洋助]
「……ふぁ」
施設の前で欠伸をしながら自転車置き場で準備をしている原地がそこに居た。
[仁ノ岡 塁]
「はっはっははー」
[原地 洋助]
「……?」
[仁ノ岡 塁]
「良い朝だな、洋助」
[原地 洋助]
「……塁?おはよう」
[仁ノ岡 塁]
「ああ、おはよう」
お互い朝の挨拶を交わす仁ノ岡と原地。
そして仁ノ岡も原地の隣につき、自転車を走らせる為に自転車の鍵へと手を掛ける。
[原地 洋助]
「へぇ、何?もう学校行けるの?」
[仁ノ岡 塁]
「そうだ洋助、我の大罪をどうか許してくれ」
[原地 洋助]
「ん?」
なんの事か分からず聞き返す原地。
[仁ノ岡 塁]
「友情より、恋心を取ってしまった俺様の罪を……」
その捨て台詞の後に、先に自転車に乗って通学路へと走り出す仁ノ岡だった。
[原地 洋助]
「なに、どう言う事」
[不尾丸 論]
「塁が朝蔵先輩と付き合うらしい」
そこに通り掛かる不尾丸。
[原地 洋助]
「えっ!?……おい待て塁!!」
原地は仁ノ岡の後を追うように、自転車で走り去って行く。
[不尾丸 論]
「……あーあ、寂しいな」
……。
[仁ノ岡 塁]
「……」
学校に着いて静かに廊下を歩く仁ノ岡。
[1年女子A]
「ねぇ、あれ仁ノ岡くんだよね?」
[1年女子B]
「あ、そうだよ。学校、来たんだね……」
周りの女子達はそんな仁ノ岡を見てヒソヒソと何か話している。
すると仁ノ岡の背後からある人物が迫って来て、その人物が仁ノ岡の肩を掴む。
[原地 洋助]
「お、おい塁……くん」
[仁ノ岡 塁]
「おっと……なんだお前か」
仁ノ岡が原地の方を向く。
[原地 洋助]
「論……くんが言ってたけど、お前が……塁くんが大空先輩と付き合うって、どう言う事かなー?」
原地は仁ノ岡に対して作り笑いを浮かべる。
[仁ノ岡 塁]
「そのままの意味だが?」
[原地 洋助]
「え……なんか妙に堂々としてるけど、ボクが大空先輩の事好きだって知ってるよね?」
[仁ノ岡 塁]
「ああ、と言うかお前。その喋り方はなんだ?"塁くん"とか馴れんのだが……」
そう言って仁ノ岡は気まずそうに原地から目を逸らす。
[原地 洋助]
「お……ボクだって動揺しながら頑張って喋ってんだよ、引いてないで合わせろ馬鹿」
周りを気にして声が小さくなる原地。
[仁ノ岡 塁]
「なんでこの俺様が合わせなくてはならんのだ。まあ安心しろ。あいつはまだ、完全に俺様のものではない」
[原地 洋助]
「なに?」
[仁ノ岡 塁]
「……振られた。あの女、自分から誘ってきたと言うのに断るとはどう言う事だ?本当に、変な女だ」
[原地 洋助]
「……へ、変なのは君の方だろう!だってずっと『女には興味無い』とか言ってたのに、急にどうしちゃったんだよ?」
[仁ノ岡 塁]
「ん?……まず大前提に、あれは普通の女ではない。俺と同じ『特別』……。そう、例えるなら女神。俺様だけの"メリィ"だ、だから興味が出た」
顎にスリスリと手を当てながら自信満々に語りだす仁ノ岡。
[原地 洋助]
「は?意味分かんな……」
[仁ノ岡 塁]
「お前こそなんだ、一昔前のお前はもっと……俺は前のお前の方が好きだな……そう!まさに己を貫いていた。今のお前は、媚びていて自分が無い。見てて哀れだ」
[原地 洋助]
「は!?い、今その話関係無いだろ!」
ザワザワ……。
[1年男子A]
「何やってんだあいつら……」
[1年男子B]
「あん?険悪な雰囲気にみえるけど、喧嘩してんのかぁ?」
原地は仁ノ岡とのやり取りを人に見られている事に気付く。
[原地 洋助]
「……チッ、ちょ、ちょっと場所変えようか?」
[仁ノ岡 塁]
「すまないが洋助、そんな時間は無い。もうすぐ授業も始まる。話の続きは院に戻ってからで頼む。さらばだ」
[原地 洋助]
「あぁっ……」
……。
[永瀬 里沙]
「いやぁ〜大空様は相変わらず、モテますわねー!よっ!罪な女!」
[朝蔵 大空]
「……」
私はハイテンションな里沙ちゃんに苦笑いしか出来ないでいた。
[永瀬 里沙]
「ちょっと〜少しは喜びなさいよー」
そう言って里沙ちゃんは私の頭をワシワシと撫で回す。
[朝蔵 大空]
「い、いや、私は卯月くんしか……」
[永瀬 里沙]
「あーも!良いからそいつは!別れなさいそんな奴!あっちの方が断然良い男なんだから〜イケメンだし」
もう、里沙ちゃんはイケメンイケメンしか言わないんだから……。
[朝蔵 大空]
「り、里沙ちゃんも無神経な事言うなぁ〜……」
とりあえずあの時はしっかり断らせてもらったけど。
なんでこうなってんの?
"私、よく覚えてない"
[朝蔵 大空]
「てーか里沙ちゃん、私の隣に本人居る事忘れてない?」
[卯月 神]
「……」
今まで話した内容ぜーんぶ隣の卯月くんにバッチリ聞かれていると思う。
おかげで私は気まずくてしょうがなかった。
[永瀬 里沙]
「あ!ごめん、影薄すぎて気付かなかったわ〜!」
里沙ちゃんなんか卯月くんに当たり強くない?
[朝蔵 大空]
「もう!里沙ちゃん!卯月くんが可哀想でしょ!?」
[卯月 神]
「……気にしてないですよ」
いや、確かに言ってないけどね、この子が私の彼氏だって事はまだはっきりとは。
早くダブルデートして、私にとって卯月くんが私の彼氏としてどれだけ相応しいか……里沙ちゃんに見せつけたい!
でも相手が……。
[朝蔵 大空]
「……」
……良い事思い付いた。
その次の時間、私はすぐに真昼の教室に乗り込んだ。
[朝蔵 真昼]
「なに」
私は、自分の席に座っていた真昼に声を掛ける。
[朝蔵 大空]
「真昼!今度の日曜、空いてる?」
[朝蔵 真昼]
「ん、一応空いてるけど」
[不尾丸 論]
「……?」
近くに居た不尾丸が、大空と真昼の会話に耳を傾ける。
[朝蔵 大空]
「あのね、『お願い』があるんだけど……」
……。
[原地 洋助]
(ああくそ、塁の奴相変わらず何考えてるか分かんねー)
コンコンコンっ!!
部活から帰って来た原地が、仁ノ岡の部屋のドアを勢い良く叩く。
コンコンコンっ!
[原地 洋助]
「ちょっと!居るんでしょ!!」
コンコンコンっ!
だが、部屋の中の人物はなんとも反応を示さない。
[原地 洋助]
「開けるよ!」
痺れを切らして勝手に部屋に入って行ってしまう原地。
[原地 洋助]
「暗っ、電気ぐらいつけなよ」
仁ノ岡の部屋は電気がついておらず、窓からの微かな光と、廊下側の明かりだけが射し込んでいた。
[仁ノ岡 塁]
「……」
仁ノ岡は硬い床に倒れ込んで、『すぅすぅ』と寝息を立てて寝ているようだった。
[原地 洋助]
「し、死んでる。部活も無いくせに、普段引きこもってるから……はぁ」
原地は仁ノ岡の体を引っ張り起こし、仁ノ岡をベッドの方に投げ込んだ。
[原地 洋助]
(軽っ、おれより身長高いよね?)
[原地 洋助]
「心配になる……」
……。
そして休日の朝。
私服の私は駅前で友人を待っていた。
[永瀬 里沙]
「おはよー!」
[朝蔵 大空]
「おはよっ」
同じく私服の可愛い里沙ちゃんが、私を見つけてこちらに掛けて来る。
そうです!
今日は友達の里沙ちゃんを誘ってお外へお出かけ!
[永瀬 里沙]
「どこ行く?」
[朝蔵 大空]
「行ってからのお楽しみ〜」
ふふーん、まだ教えないよー!里沙ちゃん♡
[永瀬 里沙]
「えぇ、どこだろっ?」
後ろから着いて来る里沙ちゃんは呑気に頭からカラフルな音符マークを出しながらルンルンとしている。
フフフ、私の企みがバレてないようで良かったー。
そのまま、今の内にご機嫌にしてると良いわ!
[朝蔵 大空]
「もうすぐ着くよ♪」
[永瀬 里沙]
「この辺って……もしかして『ワガナカランド』!!?」
[朝蔵 大空]
「ん〜〜〜正解!」
テーマパーク『ワガナカランド』……県内でも大人気の遊園地。
昔、"家族"でよく行ったなー。
ま、今回も"家族のひとり"を連れて来た訳だけど……。
[永瀬 里沙]
「やったー!!もー、大空ったら……先に教えてくれたらお揃いのカチューシャとか買ったのに」
[朝蔵 大空]
「ごめんごめん、でもお揃いなら私より、今日の彼氏とやれば?」
[永瀬 里沙]
「きょ、今日の彼氏?」
お察しの通り、今日で私はずっと夢だったダブルデートを実現させる!
[朝蔵 真昼]
「里沙さーん!!」
事に成功した!!
[永瀬 里沙]
「え……真昼くん!?」
こちらに掛けて来る真昼に気が付いて顔を青ざめる里沙ちゃん。
[朝蔵 大空]
「あはははは!」
私は堪えていた笑いがついに吹き出し、その場で天に顔を上げて笑い散らかす。
[永瀬 里沙]
「ちょ、ちょ、どう言う事!?」
[朝蔵 大空]
「いやー、ちょっと里沙ちゃんの懲らしめてやろーかなって!私の卯月くんを蔑ろにした罰♡」
[永瀬 里沙]
「はっ?そ、そんな……」
[朝蔵 真昼]
「里沙さ〜〜〜ん!!」
里沙ちゃんにぎゅっと抱き着き、離そうとしない真昼。
あーもー!うちの弟はこんなに可愛い!
普段はドライなくせに、好きな人にはデレデレな所が……。
グッド!!!
[永瀬 里沙]
「う、うわうわうわうわぁぁ」
[朝蔵 大空]
「どうして今まで気付かなかったんだろ〜。『灯台もと暗し』……里沙ちゃんに相応しい相手って、よく考えたら真昼しか居ないじゃん!って事に、やっと気付いたのー」
[永瀬 里沙]
「ち、チクショーまたやられた!」
私はよく、お調子者の里沙ちゃんを懲らしめる時に身内の『真昼』を使う。
1年前……。
[朝蔵 大空]
『ねぇ里沙ちゃん、うちの真昼と付き合ってやってよ』
[永瀬 里沙]
『えっ……うーん遠慮しときます』
[朝蔵 大空]
『なんで?いっつも顔の良い彼氏欲しいって言ってたじゃん。うちの弟じゃ不満?』
[永瀬 里沙]
『い、いやぁ、可愛いとは思うけど……』
[朝蔵 大空]
『うちの真昼も難しい性格でね……滅多に他人に興味を示さないの。だからこんなに好かれてるのは里沙ちゃんが多分初めて……』
[永瀬 里沙]
『えっとー、うーん、はぁ…………あんたの弟、ちょっと愛し方が病的すぎんのよ……』
……。
[朝蔵 真昼]
「里沙さぁん、里沙さん、好き好き好き……」
[永瀬 里沙]
「ひーっ」
羨ましい!世界一可愛い我が弟にこんなに愛されてて!!
早く付き合ってよ、その方が私も楽!
里沙ちゃんもなんでいつまでも渋ってるのか分かんない。
[永瀬 里沙]
「大空ごめん!何か気に障ったなら謝るから!早くこの子離して!」
[朝蔵 真昼]
「えーっ!離れないでよ里沙さーん!」
[永瀬 里沙]
「ひぃ〜、ねぇ大空!もう良いでしょ!もう許して!おねがーい〜」
[朝蔵 大空]
「ダメ!今日一日は付き合ってもらうから、さぁ行こう!卯月くん!」
[卯月 神]
「は、はい」
私は卯月くんの背中を押しながらパークの中へと進んで行く。
[永瀬 里沙]
「卯月!?あんたも居たの……」
[朝蔵 真昼]
「……里沙さん!ぼく以外の男の人なんか、見ちゃダメなんだからね」
[永瀬 里沙]
「うっ……!」
そう言って里沙の腰に回した腕の力を強くする真昼。
[永瀬 里沙]
「そんな……」
[永瀬 里沙]
(今日一日この子から離れられないなんて……死んだ方がマシかも)
つづく……。
[原地 洋助]
「……ふぁ」
施設の前で欠伸をしながら自転車置き場で準備をしている原地がそこに居た。
[仁ノ岡 塁]
「はっはっははー」
[原地 洋助]
「……?」
[仁ノ岡 塁]
「良い朝だな、洋助」
[原地 洋助]
「……塁?おはよう」
[仁ノ岡 塁]
「ああ、おはよう」
お互い朝の挨拶を交わす仁ノ岡と原地。
そして仁ノ岡も原地の隣につき、自転車を走らせる為に自転車の鍵へと手を掛ける。
[原地 洋助]
「へぇ、何?もう学校行けるの?」
[仁ノ岡 塁]
「そうだ洋助、我の大罪をどうか許してくれ」
[原地 洋助]
「ん?」
なんの事か分からず聞き返す原地。
[仁ノ岡 塁]
「友情より、恋心を取ってしまった俺様の罪を……」
その捨て台詞の後に、先に自転車に乗って通学路へと走り出す仁ノ岡だった。
[原地 洋助]
「なに、どう言う事」
[不尾丸 論]
「塁が朝蔵先輩と付き合うらしい」
そこに通り掛かる不尾丸。
[原地 洋助]
「えっ!?……おい待て塁!!」
原地は仁ノ岡の後を追うように、自転車で走り去って行く。
[不尾丸 論]
「……あーあ、寂しいな」
……。
[仁ノ岡 塁]
「……」
学校に着いて静かに廊下を歩く仁ノ岡。
[1年女子A]
「ねぇ、あれ仁ノ岡くんだよね?」
[1年女子B]
「あ、そうだよ。学校、来たんだね……」
周りの女子達はそんな仁ノ岡を見てヒソヒソと何か話している。
すると仁ノ岡の背後からある人物が迫って来て、その人物が仁ノ岡の肩を掴む。
[原地 洋助]
「お、おい塁……くん」
[仁ノ岡 塁]
「おっと……なんだお前か」
仁ノ岡が原地の方を向く。
[原地 洋助]
「論……くんが言ってたけど、お前が……塁くんが大空先輩と付き合うって、どう言う事かなー?」
原地は仁ノ岡に対して作り笑いを浮かべる。
[仁ノ岡 塁]
「そのままの意味だが?」
[原地 洋助]
「え……なんか妙に堂々としてるけど、ボクが大空先輩の事好きだって知ってるよね?」
[仁ノ岡 塁]
「ああ、と言うかお前。その喋り方はなんだ?"塁くん"とか馴れんのだが……」
そう言って仁ノ岡は気まずそうに原地から目を逸らす。
[原地 洋助]
「お……ボクだって動揺しながら頑張って喋ってんだよ、引いてないで合わせろ馬鹿」
周りを気にして声が小さくなる原地。
[仁ノ岡 塁]
「なんでこの俺様が合わせなくてはならんのだ。まあ安心しろ。あいつはまだ、完全に俺様のものではない」
[原地 洋助]
「なに?」
[仁ノ岡 塁]
「……振られた。あの女、自分から誘ってきたと言うのに断るとはどう言う事だ?本当に、変な女だ」
[原地 洋助]
「……へ、変なのは君の方だろう!だってずっと『女には興味無い』とか言ってたのに、急にどうしちゃったんだよ?」
[仁ノ岡 塁]
「ん?……まず大前提に、あれは普通の女ではない。俺と同じ『特別』……。そう、例えるなら女神。俺様だけの"メリィ"だ、だから興味が出た」
顎にスリスリと手を当てながら自信満々に語りだす仁ノ岡。
[原地 洋助]
「は?意味分かんな……」
[仁ノ岡 塁]
「お前こそなんだ、一昔前のお前はもっと……俺は前のお前の方が好きだな……そう!まさに己を貫いていた。今のお前は、媚びていて自分が無い。見てて哀れだ」
[原地 洋助]
「は!?い、今その話関係無いだろ!」
ザワザワ……。
[1年男子A]
「何やってんだあいつら……」
[1年男子B]
「あん?険悪な雰囲気にみえるけど、喧嘩してんのかぁ?」
原地は仁ノ岡とのやり取りを人に見られている事に気付く。
[原地 洋助]
「……チッ、ちょ、ちょっと場所変えようか?」
[仁ノ岡 塁]
「すまないが洋助、そんな時間は無い。もうすぐ授業も始まる。話の続きは院に戻ってからで頼む。さらばだ」
[原地 洋助]
「あぁっ……」
……。
[永瀬 里沙]
「いやぁ〜大空様は相変わらず、モテますわねー!よっ!罪な女!」
[朝蔵 大空]
「……」
私はハイテンションな里沙ちゃんに苦笑いしか出来ないでいた。
[永瀬 里沙]
「ちょっと〜少しは喜びなさいよー」
そう言って里沙ちゃんは私の頭をワシワシと撫で回す。
[朝蔵 大空]
「い、いや、私は卯月くんしか……」
[永瀬 里沙]
「あーも!良いからそいつは!別れなさいそんな奴!あっちの方が断然良い男なんだから〜イケメンだし」
もう、里沙ちゃんはイケメンイケメンしか言わないんだから……。
[朝蔵 大空]
「り、里沙ちゃんも無神経な事言うなぁ〜……」
とりあえずあの時はしっかり断らせてもらったけど。
なんでこうなってんの?
"私、よく覚えてない"
[朝蔵 大空]
「てーか里沙ちゃん、私の隣に本人居る事忘れてない?」
[卯月 神]
「……」
今まで話した内容ぜーんぶ隣の卯月くんにバッチリ聞かれていると思う。
おかげで私は気まずくてしょうがなかった。
[永瀬 里沙]
「あ!ごめん、影薄すぎて気付かなかったわ〜!」
里沙ちゃんなんか卯月くんに当たり強くない?
[朝蔵 大空]
「もう!里沙ちゃん!卯月くんが可哀想でしょ!?」
[卯月 神]
「……気にしてないですよ」
いや、確かに言ってないけどね、この子が私の彼氏だって事はまだはっきりとは。
早くダブルデートして、私にとって卯月くんが私の彼氏としてどれだけ相応しいか……里沙ちゃんに見せつけたい!
でも相手が……。
[朝蔵 大空]
「……」
……良い事思い付いた。
その次の時間、私はすぐに真昼の教室に乗り込んだ。
[朝蔵 真昼]
「なに」
私は、自分の席に座っていた真昼に声を掛ける。
[朝蔵 大空]
「真昼!今度の日曜、空いてる?」
[朝蔵 真昼]
「ん、一応空いてるけど」
[不尾丸 論]
「……?」
近くに居た不尾丸が、大空と真昼の会話に耳を傾ける。
[朝蔵 大空]
「あのね、『お願い』があるんだけど……」
……。
[原地 洋助]
(ああくそ、塁の奴相変わらず何考えてるか分かんねー)
コンコンコンっ!!
部活から帰って来た原地が、仁ノ岡の部屋のドアを勢い良く叩く。
コンコンコンっ!
[原地 洋助]
「ちょっと!居るんでしょ!!」
コンコンコンっ!
だが、部屋の中の人物はなんとも反応を示さない。
[原地 洋助]
「開けるよ!」
痺れを切らして勝手に部屋に入って行ってしまう原地。
[原地 洋助]
「暗っ、電気ぐらいつけなよ」
仁ノ岡の部屋は電気がついておらず、窓からの微かな光と、廊下側の明かりだけが射し込んでいた。
[仁ノ岡 塁]
「……」
仁ノ岡は硬い床に倒れ込んで、『すぅすぅ』と寝息を立てて寝ているようだった。
[原地 洋助]
「し、死んでる。部活も無いくせに、普段引きこもってるから……はぁ」
原地は仁ノ岡の体を引っ張り起こし、仁ノ岡をベッドの方に投げ込んだ。
[原地 洋助]
(軽っ、おれより身長高いよね?)
[原地 洋助]
「心配になる……」
……。
そして休日の朝。
私服の私は駅前で友人を待っていた。
[永瀬 里沙]
「おはよー!」
[朝蔵 大空]
「おはよっ」
同じく私服の可愛い里沙ちゃんが、私を見つけてこちらに掛けて来る。
そうです!
今日は友達の里沙ちゃんを誘ってお外へお出かけ!
[永瀬 里沙]
「どこ行く?」
[朝蔵 大空]
「行ってからのお楽しみ〜」
ふふーん、まだ教えないよー!里沙ちゃん♡
[永瀬 里沙]
「えぇ、どこだろっ?」
後ろから着いて来る里沙ちゃんは呑気に頭からカラフルな音符マークを出しながらルンルンとしている。
フフフ、私の企みがバレてないようで良かったー。
そのまま、今の内にご機嫌にしてると良いわ!
[朝蔵 大空]
「もうすぐ着くよ♪」
[永瀬 里沙]
「この辺って……もしかして『ワガナカランド』!!?」
[朝蔵 大空]
「ん〜〜〜正解!」
テーマパーク『ワガナカランド』……県内でも大人気の遊園地。
昔、"家族"でよく行ったなー。
ま、今回も"家族のひとり"を連れて来た訳だけど……。
[永瀬 里沙]
「やったー!!もー、大空ったら……先に教えてくれたらお揃いのカチューシャとか買ったのに」
[朝蔵 大空]
「ごめんごめん、でもお揃いなら私より、今日の彼氏とやれば?」
[永瀬 里沙]
「きょ、今日の彼氏?」
お察しの通り、今日で私はずっと夢だったダブルデートを実現させる!
[朝蔵 真昼]
「里沙さーん!!」
事に成功した!!
[永瀬 里沙]
「え……真昼くん!?」
こちらに掛けて来る真昼に気が付いて顔を青ざめる里沙ちゃん。
[朝蔵 大空]
「あはははは!」
私は堪えていた笑いがついに吹き出し、その場で天に顔を上げて笑い散らかす。
[永瀬 里沙]
「ちょ、ちょ、どう言う事!?」
[朝蔵 大空]
「いやー、ちょっと里沙ちゃんの懲らしめてやろーかなって!私の卯月くんを蔑ろにした罰♡」
[永瀬 里沙]
「はっ?そ、そんな……」
[朝蔵 真昼]
「里沙さ〜〜〜ん!!」
里沙ちゃんにぎゅっと抱き着き、離そうとしない真昼。
あーもー!うちの弟はこんなに可愛い!
普段はドライなくせに、好きな人にはデレデレな所が……。
グッド!!!
[永瀬 里沙]
「う、うわうわうわうわぁぁ」
[朝蔵 大空]
「どうして今まで気付かなかったんだろ〜。『灯台もと暗し』……里沙ちゃんに相応しい相手って、よく考えたら真昼しか居ないじゃん!って事に、やっと気付いたのー」
[永瀬 里沙]
「ち、チクショーまたやられた!」
私はよく、お調子者の里沙ちゃんを懲らしめる時に身内の『真昼』を使う。
1年前……。
[朝蔵 大空]
『ねぇ里沙ちゃん、うちの真昼と付き合ってやってよ』
[永瀬 里沙]
『えっ……うーん遠慮しときます』
[朝蔵 大空]
『なんで?いっつも顔の良い彼氏欲しいって言ってたじゃん。うちの弟じゃ不満?』
[永瀬 里沙]
『い、いやぁ、可愛いとは思うけど……』
[朝蔵 大空]
『うちの真昼も難しい性格でね……滅多に他人に興味を示さないの。だからこんなに好かれてるのは里沙ちゃんが多分初めて……』
[永瀬 里沙]
『えっとー、うーん、はぁ…………あんたの弟、ちょっと愛し方が病的すぎんのよ……』
……。
[朝蔵 真昼]
「里沙さぁん、里沙さん、好き好き好き……」
[永瀬 里沙]
「ひーっ」
羨ましい!世界一可愛い我が弟にこんなに愛されてて!!
早く付き合ってよ、その方が私も楽!
里沙ちゃんもなんでいつまでも渋ってるのか分かんない。
[永瀬 里沙]
「大空ごめん!何か気に障ったなら謝るから!早くこの子離して!」
[朝蔵 真昼]
「えーっ!離れないでよ里沙さーん!」
[永瀬 里沙]
「ひぃ〜、ねぇ大空!もう良いでしょ!もう許して!おねがーい〜」
[朝蔵 大空]
「ダメ!今日一日は付き合ってもらうから、さぁ行こう!卯月くん!」
[卯月 神]
「は、はい」
私は卯月くんの背中を押しながらパークの中へと進んで行く。
[永瀬 里沙]
「卯月!?あんたも居たの……」
[朝蔵 真昼]
「……里沙さん!ぼく以外の男の人なんか、見ちゃダメなんだからね」
[永瀬 里沙]
「うっ……!」
そう言って里沙の腰に回した腕の力を強くする真昼。
[永瀬 里沙]
「そんな……」
[永瀬 里沙]
(今日一日この子から離れられないなんて……死んだ方がマシかも)
つづく……。