悲恋の大空
灼熱の太陽の下、ミギヒロは屋根の上に腰を下ろしていた。
──尻を少し浮かせて。
[加藤 右宏]
「アチぃ……」
[アリリオ]
「あれ、王子。こんなとこで何してんの?」
見掛けたアリリオが空から降りてきて、ミギヒロの隣に立つ。
[加藤 右宏]
「あいつが彼氏と電話するからっテ、オレを追い出しやがったんだヨー」
[アリリオ]
「ふーん、ブラブラだね」
[加藤 右宏]
「それ言うなら"ラブラブ"なー」
[アリリオ]
「あぁ、そうだったね」
そう言いながらアリリオは、ミギヒロの頭上に日除けとなる日傘を掲げる。
[加藤 ミギヒロ]
「ウーん」
[アリリオ]
「でも良いの?あの天使、天使のくせして人間と一緒になるんでしょ?もうひとりの方は帰ったみたいだけど……」
[加藤 右宏]
「アイツが良いならそれで良いンだろー」
[アリリオ]
「えっ、だからそれだと今までの計画が……パーになるって事じゃない?」
[加藤 右宏]
「エっ?」
[アリリオ]
「パーだよ」
アリリオは両手を文字通りパーの形にしてひとボケを披露する。
[加藤 右宏]
「計画が、パァ!!?」
くつろいでいたミギヒロは勢い良く腰を上げる。
[アリリオ]
「うん……王子、魔界に戻って勉強しなきゃね」
[加藤 右宏]
「なっ……そ、ソれは」
[アリリオ]
「……?」
[加藤 右宏]
「そんなのダメだー!ぐぬぬ……なんとかなれー!」
その時、空に一瞬黒い光が走った。
[卯月 神]
「じゃあ僕バイトなのでそろそろ切りますね」
[朝蔵 大空]
「あ、うん!じゃあね!」
[卯月 神]
「はい」
ピッ。
……。
[朝蔵 大空]
「海!?」
[朝蔵 葵]
「ええ、そうよ」
[朝蔵 千夜]
「超良いじゃん!」
[朝蔵 真昼]
「また急だね」
今は夏休み序盤お母さんが突然、『明後日海に行くわよ』と言い出した。
[朝蔵 葵]
「そう、巣桜さんに『ご一緒にどうですかー』って誘われちゃってね♪」
[朝蔵 大空]
「そうなの?」
巣桜さんって、燕さん達の事だよね?
それって司くんも来るって事なのかな?
[朝蔵 千夜]
「巣桜さん?……って、誰?」
千夜お兄ちゃんが横を向いて真昼に尋ねる。
[朝蔵 真昼]
「うちの隣の家の人」
[朝蔵 千夜]
「えっ、あれ空き家でしょ?」
[朝蔵 真昼]
「引っ越して来たの」
それに真昼はゲームをしながら簡潔に答える。
[朝蔵 大空]
「海ってどこの海?」
[朝蔵 葵]
「いつものとこよー」
"いつものとこ"って……。
お母さん、最後に家族で海行ったのいつだって思ってるんだろ?
私も最後がいつだったか曖昧だけど。
……曖昧、だな。
……。
[巣桜 燕]
「今日はよろしくお願いしますー」
[朝蔵 葵]
「こちらこそよろしくお願いしまーす」
海に行く日の朝、互いの母親達が挨拶を交わし合う。
[朝蔵 大空]
「……司くんは……?」
司くんも来ると思ってたのに姿が見えないんだけど……。
[巣桜 燕]
「ほら司、挨拶!」
[朝蔵 大空]
「……?」
不思議に思っていると、燕さんの背後から何かが顔を出した。
[巣桜 司]
「うぅ……」
[朝蔵 大空]
「!?」
司くんずっと燕さんの後ろに隠れてたのー!?
気が付かなかった!!
[朝蔵 葵]
「司くん、おはよ」
[巣桜 司]
「こ……こんにちはぁ……」
司くんはか細い声で言葉を返した。
[朝蔵 真昼]
「ふん、相変わらずみたいだね」
[朝蔵 大空]
「うん……」
全くもう司くんったら、狂沢くんが横に居ないとほんとダメになるよね。
司くんの性格上、仕方無いけどさぁ。
[朝蔵 千夜]
「かっ……」
[巣桜 司]
「ぅっ……?」
私達と並んで立っていたお兄ちゃんが、一歩前に出る。
[朝蔵 千夜]
「可愛い〜〜〜!!」
[巣桜 司]
「ひきゃっ……!?」
お兄ちゃんは腕を大きく広げて司くんに飛んで抱き着く。
周囲にはピンク色のハートマークが見える。
[巣桜 燕]
「まあ……」
燕さんはその様子を見て口をポカンと開けて驚いている。
[巣桜 司]
「なっ、何するんですかぁ!?」
[朝蔵 千夜]
「君が司くんだねぇ?めっちゃくちゃ可愛いじゃん!今度僕に着せ替えさせてー!」
着せ替え……?
お兄ちゃんの言う着せ替えって、女の子向けのラブリー系の服だよね?
司くんだったらまあ……似合うとは思うけど。
[巣桜 司]
「む、無理……」
まずい、司くんがお兄ちゃんの陽のオーラに吐きそうな顔をしている。
[朝蔵 葵]
「あらぁ〜、目の保養だわ♡」
お母さんはその様子を見て、それはそれは微笑ましそうに頬に手を置いて眺めている。
[朝蔵 真昼]
「お姉ちゃん止めて」
[朝蔵 大空]
「……」
真昼に言われ、私はお兄ちゃん達の方へと歩き出す。
[朝蔵 大空]
「お兄ちゃん、自重して」
[朝蔵 千夜]
「おっとー、すまんすまん。司くん♡今日は仲良くしよーね〜」
お兄ちゃんってやっぱり男の人が好きなのかな……?
我が兄、そこは謎である。
[巣桜 司]
「ひゅるひゅるひゅる……」
お兄ちゃんが司くんからやっと離れると、司くんはその場で萎びて倒れた。
さぁ皆んな車に飛び乗って出発だ。
[朝蔵 葵]
「気持ち良いわね〜」
[朝蔵 真昼]
「あっつい……」
[朝蔵 千夜]
「きゃー、ナンパされちゃったらどうしよー、真昼!お兄ちゃんの事守ってね♡」
お兄ちゃんが真昼に擦り寄ろうとする。
[朝蔵 真昼]
「近付かないで、気持ち悪い。暑いし」
[朝蔵 千夜]
「もー♡そんな事言ってるけど真昼も、水着のお姉さん達ばっか見ちゃダメだよ♪」
擦り寄ってくるお兄ちゃんを早い動きで真昼は避け続ける。
[朝蔵 千夜]
「真昼も健全な高校生男子♡なんだからさー、やっぱりちょっとそう言うのに期待してるんじゃなーいの?♪」
[朝蔵 真昼]
「ふん、まさか。ぼくは里沙さんにしか興味無い」
[朝蔵 千夜]
「えー、あの子まな板じゃん」
ピキっ。
[朝蔵 真昼]
「貴様……里沙さんを愚弄する気か」
[朝蔵 千夜]
「おっとっと、これはやばい雰囲気……」
次の瞬間、お兄ちゃんと真昼は砂浜で追い掛けっこを始めた。
真昼に里沙ちゃんの事を馬鹿にするような発言はNGだよお兄ちゃん……。
思い出すなぁ、ちょっと前私も里沙ちゃんと喧嘩した時も……。
大空の回想。
[朝蔵 大空]
「まったくもーあのクソトリプルAカップ調子乗りやがってー!」
[朝蔵 真昼]
「……」
[朝蔵 大空]
「……!? ま、真昼?」
[朝蔵 真昼]
「お姉ちゃん、里沙さんと喧嘩したんだって?」
[朝蔵 大空]
「うん……」
[朝蔵 真昼]
「里沙さんの事泣かせたら承知しないからね、どうせお姉ちゃんが悪いんだからさっさと謝ってよね、ぼく里沙さんの方が大事だから、お姉ちゃんの気持ちなんてどうでも良いから、だから里沙さんの悪口言わないで気分悪いんですけど?」
[朝蔵 大空]
「……はい」
大空の回想終わり。
あの時は一晩泣いたなー、もう気にしてないけど。
[巣桜 燕]
「兄弟仲が良いんですね〜」
[朝蔵 葵]
「うっふふ、イケメンいるかしら♡」
[巣桜 燕]
「もー、葵さんったら♪ハンサムな旦那さんがいるでしょう?」
[朝蔵 葵]
「ええ、それは♡ 主人は仕事人間だから、滅多に家に帰って来ないんですー」
[巣桜 燕]
「あら、うちも一緒でーす♪」
お母さんと燕さんは、話しながら海の方に歩いて行ってしまった。
その時、パラソルの下で座っている司くんが目に入った。
[朝蔵 大空]
「司くん?」
[巣桜 司]
「あっ、大空そん……ん!」
司くんは『大空さん』って言おうとしたのだろうが。
[朝蔵 大空]
「なんで噛むの?」
[巣桜 司]
「ご、ごめんなさい!緊張しちゃって……」
[朝蔵 大空]
「わ、私別に怒ってないから……」
[巣桜 司]
「う、うゆーん……」
そんなに申し訳無さそうな顔しなくて良いのに……。
[朝蔵 大空]
「隣、良い?」
[巣桜 司]
「あ、はい!どうぞ……」
そう言いながら司くんは横に少しズレてくれる。
司くんの許可を得て私は司くんの隣に座る。
[朝蔵 大空]
「さっきはごめんね、うちの兄が」
私がそう言うと、司くんはびっくりしたような顔を私に向ける。
[巣桜 司]
「えっ!あの人お兄さんなんですか?」
[朝蔵 大空]
「うん……ああ見えてね。ごめんね、お兄ちゃん距離感バグってて」
[巣桜 司]
「あっ、大空さんが謝る事は無いです……こちらこそ、ごめんなさい!」
な、なんで司くんが謝るんだろう?
[朝蔵 大空]
「……」
[巣桜 司]
「ど、どうしたんですか?」
[朝蔵 大空]
「あ、ううん、なんでもないよ」
[巣桜 司]
「あ……そうなんですね」
[朝蔵 大空]
「……」
やばいなー、司くんと会話が続かない。
って、せっかく海に来たのにふたりで座ってるだけなんて勿体無いよね?
[巣桜 司]
「……」
[朝蔵 大空]
「じゃあ……泳ぎにでも行く?」
[巣桜 司]
「えっ、泳ぐ?」
[朝蔵 大空]
「あ、うん。海だし」
[巣桜 司]
「さ、鮫」
司くんの顔が青ざめる。
[朝蔵 大空]
「さめ?」
[巣桜 司]
「鮫です! 食べられちゃいますー!」
[朝蔵 大空]
「あー……」
司くん、鮫が怖いから海にも入らずひとりで座ってたんだ……。
[朝蔵 大空]
「じゃあ私だけ行って来ようかな」
[巣桜 司]
「えっ、大空さん行っちゃうんですか……?」
[朝蔵 大空]
「こう……波に身を任せてプカプカーっと浮かんでくるの〜」
私はまるで自分がクラゲになったかのように、腕を動かして踊る。
[巣桜 司]
「ふひひっ、なんかワカメみたいですね!」
ワカメ!?
[朝蔵 大空]
「もー、イメージしたのはクラゲだよー!」
[巣桜 司]
「えーーーーーーー!!!!!」
そんな驚く?
[巣桜 司]
「ごほごほごほっ」
司くんったら驚きすぎて噎せちゃってるじゃん……。
いちいち疲れそうな動きをする子だなぁ。
[朝蔵 大空]
「ワカメの真似も出来るよ〜」
私は同じように腕と腰を使って精一杯ワカメの物真似をする。
[巣桜 司]
「あ、あまり違いが……」
[朝蔵 大空]
「よーし、準備体操も終わったと言う事で。私、泳いできます!」
[巣桜 司]
「大空さん!?」
司くんと喋っている間にも、私は早く海に入りたくてうずうずしていた。
私は海を目掛けて体を走らせる。
ザプーン……!!
[朝蔵 大空]
「ひえ、飲んじゃったしょっぱい……」
私は海で泳ぐと言うよりも、ただ波に身を任せて浮かんでいるのが好き!
でもたまに海の水を飲んでしまう……。
[若い男A]
「俺さっき小便したわ〜」
[若い男B]
「お前やば!俺もだけどー」
[若い男A]
「ギャハハ!!」
最悪!!
[朝蔵 大空]
「うぇ……」
タチの悪い冗談だと願いたい。
プールとかでもそうだけど、水に入っててバレないからって公共の場で"する"人ってどう言う神経してる訳?
トイレ行けよ!
まあ……。
私もだけど!
なーんちゃって!
冗談です、冗談ですー。
[朝蔵 大空]
「……!」
神聖な海で馬鹿な事を考えていたのがバチが当たったのか。
[朝蔵 大空]
「あ、足つった」
私は足をつらせてしまい、海の中へとひっくり返る。
バシャバシャ!
[朝蔵 大空]
「オボボボボ」
し、死ぬ……。
他人のおしっこが0.1%混じった海で溺れ死ぬ!
[朝蔵 大空]
「助けてー!(水中)」
[???]
「……!」
[朝蔵 大空]
「……!?(水中)」
今、何か聞こえた?
[朝蔵 大空]
「ぷはぁ……っ!」
私の体が何者かに支えられ、私はなんとか酸素を確保する事が出来た。
[朝蔵 大空]
「あ、ありがとうございます!」
誰かに救われた事を察し、私はお礼の言葉を吐き出す。
[巣桜 司(?)]
「あー、焦った焦った。司の奴、自分で行けないからって人遣い荒いんだよ」
頭上で、"司くんの声"でボソボソと何か言っているのが聞こえる。
[朝蔵 大空]
「司くん!?」
[巣桜 司(?)]
「……?」
溺れた私を助けてくれたのは、さっきまでの司くんとは違う、違和感のある司くん?だった。
ど……どうして?
「進捗は夕方」おわり……。
──尻を少し浮かせて。
[加藤 右宏]
「アチぃ……」
[アリリオ]
「あれ、王子。こんなとこで何してんの?」
見掛けたアリリオが空から降りてきて、ミギヒロの隣に立つ。
[加藤 右宏]
「あいつが彼氏と電話するからっテ、オレを追い出しやがったんだヨー」
[アリリオ]
「ふーん、ブラブラだね」
[加藤 右宏]
「それ言うなら"ラブラブ"なー」
[アリリオ]
「あぁ、そうだったね」
そう言いながらアリリオは、ミギヒロの頭上に日除けとなる日傘を掲げる。
[加藤 ミギヒロ]
「ウーん」
[アリリオ]
「でも良いの?あの天使、天使のくせして人間と一緒になるんでしょ?もうひとりの方は帰ったみたいだけど……」
[加藤 右宏]
「アイツが良いならそれで良いンだろー」
[アリリオ]
「えっ、だからそれだと今までの計画が……パーになるって事じゃない?」
[加藤 右宏]
「エっ?」
[アリリオ]
「パーだよ」
アリリオは両手を文字通りパーの形にしてひとボケを披露する。
[加藤 右宏]
「計画が、パァ!!?」
くつろいでいたミギヒロは勢い良く腰を上げる。
[アリリオ]
「うん……王子、魔界に戻って勉強しなきゃね」
[加藤 右宏]
「なっ……そ、ソれは」
[アリリオ]
「……?」
[加藤 右宏]
「そんなのダメだー!ぐぬぬ……なんとかなれー!」
その時、空に一瞬黒い光が走った。
[卯月 神]
「じゃあ僕バイトなのでそろそろ切りますね」
[朝蔵 大空]
「あ、うん!じゃあね!」
[卯月 神]
「はい」
ピッ。
……。
[朝蔵 大空]
「海!?」
[朝蔵 葵]
「ええ、そうよ」
[朝蔵 千夜]
「超良いじゃん!」
[朝蔵 真昼]
「また急だね」
今は夏休み序盤お母さんが突然、『明後日海に行くわよ』と言い出した。
[朝蔵 葵]
「そう、巣桜さんに『ご一緒にどうですかー』って誘われちゃってね♪」
[朝蔵 大空]
「そうなの?」
巣桜さんって、燕さん達の事だよね?
それって司くんも来るって事なのかな?
[朝蔵 千夜]
「巣桜さん?……って、誰?」
千夜お兄ちゃんが横を向いて真昼に尋ねる。
[朝蔵 真昼]
「うちの隣の家の人」
[朝蔵 千夜]
「えっ、あれ空き家でしょ?」
[朝蔵 真昼]
「引っ越して来たの」
それに真昼はゲームをしながら簡潔に答える。
[朝蔵 大空]
「海ってどこの海?」
[朝蔵 葵]
「いつものとこよー」
"いつものとこ"って……。
お母さん、最後に家族で海行ったのいつだって思ってるんだろ?
私も最後がいつだったか曖昧だけど。
……曖昧、だな。
……。
[巣桜 燕]
「今日はよろしくお願いしますー」
[朝蔵 葵]
「こちらこそよろしくお願いしまーす」
海に行く日の朝、互いの母親達が挨拶を交わし合う。
[朝蔵 大空]
「……司くんは……?」
司くんも来ると思ってたのに姿が見えないんだけど……。
[巣桜 燕]
「ほら司、挨拶!」
[朝蔵 大空]
「……?」
不思議に思っていると、燕さんの背後から何かが顔を出した。
[巣桜 司]
「うぅ……」
[朝蔵 大空]
「!?」
司くんずっと燕さんの後ろに隠れてたのー!?
気が付かなかった!!
[朝蔵 葵]
「司くん、おはよ」
[巣桜 司]
「こ……こんにちはぁ……」
司くんはか細い声で言葉を返した。
[朝蔵 真昼]
「ふん、相変わらずみたいだね」
[朝蔵 大空]
「うん……」
全くもう司くんったら、狂沢くんが横に居ないとほんとダメになるよね。
司くんの性格上、仕方無いけどさぁ。
[朝蔵 千夜]
「かっ……」
[巣桜 司]
「ぅっ……?」
私達と並んで立っていたお兄ちゃんが、一歩前に出る。
[朝蔵 千夜]
「可愛い〜〜〜!!」
[巣桜 司]
「ひきゃっ……!?」
お兄ちゃんは腕を大きく広げて司くんに飛んで抱き着く。
周囲にはピンク色のハートマークが見える。
[巣桜 燕]
「まあ……」
燕さんはその様子を見て口をポカンと開けて驚いている。
[巣桜 司]
「なっ、何するんですかぁ!?」
[朝蔵 千夜]
「君が司くんだねぇ?めっちゃくちゃ可愛いじゃん!今度僕に着せ替えさせてー!」
着せ替え……?
お兄ちゃんの言う着せ替えって、女の子向けのラブリー系の服だよね?
司くんだったらまあ……似合うとは思うけど。
[巣桜 司]
「む、無理……」
まずい、司くんがお兄ちゃんの陽のオーラに吐きそうな顔をしている。
[朝蔵 葵]
「あらぁ〜、目の保養だわ♡」
お母さんはその様子を見て、それはそれは微笑ましそうに頬に手を置いて眺めている。
[朝蔵 真昼]
「お姉ちゃん止めて」
[朝蔵 大空]
「……」
真昼に言われ、私はお兄ちゃん達の方へと歩き出す。
[朝蔵 大空]
「お兄ちゃん、自重して」
[朝蔵 千夜]
「おっとー、すまんすまん。司くん♡今日は仲良くしよーね〜」
お兄ちゃんってやっぱり男の人が好きなのかな……?
我が兄、そこは謎である。
[巣桜 司]
「ひゅるひゅるひゅる……」
お兄ちゃんが司くんからやっと離れると、司くんはその場で萎びて倒れた。
さぁ皆んな車に飛び乗って出発だ。
[朝蔵 葵]
「気持ち良いわね〜」
[朝蔵 真昼]
「あっつい……」
[朝蔵 千夜]
「きゃー、ナンパされちゃったらどうしよー、真昼!お兄ちゃんの事守ってね♡」
お兄ちゃんが真昼に擦り寄ろうとする。
[朝蔵 真昼]
「近付かないで、気持ち悪い。暑いし」
[朝蔵 千夜]
「もー♡そんな事言ってるけど真昼も、水着のお姉さん達ばっか見ちゃダメだよ♪」
擦り寄ってくるお兄ちゃんを早い動きで真昼は避け続ける。
[朝蔵 千夜]
「真昼も健全な高校生男子♡なんだからさー、やっぱりちょっとそう言うのに期待してるんじゃなーいの?♪」
[朝蔵 真昼]
「ふん、まさか。ぼくは里沙さんにしか興味無い」
[朝蔵 千夜]
「えー、あの子まな板じゃん」
ピキっ。
[朝蔵 真昼]
「貴様……里沙さんを愚弄する気か」
[朝蔵 千夜]
「おっとっと、これはやばい雰囲気……」
次の瞬間、お兄ちゃんと真昼は砂浜で追い掛けっこを始めた。
真昼に里沙ちゃんの事を馬鹿にするような発言はNGだよお兄ちゃん……。
思い出すなぁ、ちょっと前私も里沙ちゃんと喧嘩した時も……。
大空の回想。
[朝蔵 大空]
「まったくもーあのクソトリプルAカップ調子乗りやがってー!」
[朝蔵 真昼]
「……」
[朝蔵 大空]
「……!? ま、真昼?」
[朝蔵 真昼]
「お姉ちゃん、里沙さんと喧嘩したんだって?」
[朝蔵 大空]
「うん……」
[朝蔵 真昼]
「里沙さんの事泣かせたら承知しないからね、どうせお姉ちゃんが悪いんだからさっさと謝ってよね、ぼく里沙さんの方が大事だから、お姉ちゃんの気持ちなんてどうでも良いから、だから里沙さんの悪口言わないで気分悪いんですけど?」
[朝蔵 大空]
「……はい」
大空の回想終わり。
あの時は一晩泣いたなー、もう気にしてないけど。
[巣桜 燕]
「兄弟仲が良いんですね〜」
[朝蔵 葵]
「うっふふ、イケメンいるかしら♡」
[巣桜 燕]
「もー、葵さんったら♪ハンサムな旦那さんがいるでしょう?」
[朝蔵 葵]
「ええ、それは♡ 主人は仕事人間だから、滅多に家に帰って来ないんですー」
[巣桜 燕]
「あら、うちも一緒でーす♪」
お母さんと燕さんは、話しながら海の方に歩いて行ってしまった。
その時、パラソルの下で座っている司くんが目に入った。
[朝蔵 大空]
「司くん?」
[巣桜 司]
「あっ、大空そん……ん!」
司くんは『大空さん』って言おうとしたのだろうが。
[朝蔵 大空]
「なんで噛むの?」
[巣桜 司]
「ご、ごめんなさい!緊張しちゃって……」
[朝蔵 大空]
「わ、私別に怒ってないから……」
[巣桜 司]
「う、うゆーん……」
そんなに申し訳無さそうな顔しなくて良いのに……。
[朝蔵 大空]
「隣、良い?」
[巣桜 司]
「あ、はい!どうぞ……」
そう言いながら司くんは横に少しズレてくれる。
司くんの許可を得て私は司くんの隣に座る。
[朝蔵 大空]
「さっきはごめんね、うちの兄が」
私がそう言うと、司くんはびっくりしたような顔を私に向ける。
[巣桜 司]
「えっ!あの人お兄さんなんですか?」
[朝蔵 大空]
「うん……ああ見えてね。ごめんね、お兄ちゃん距離感バグってて」
[巣桜 司]
「あっ、大空さんが謝る事は無いです……こちらこそ、ごめんなさい!」
な、なんで司くんが謝るんだろう?
[朝蔵 大空]
「……」
[巣桜 司]
「ど、どうしたんですか?」
[朝蔵 大空]
「あ、ううん、なんでもないよ」
[巣桜 司]
「あ……そうなんですね」
[朝蔵 大空]
「……」
やばいなー、司くんと会話が続かない。
って、せっかく海に来たのにふたりで座ってるだけなんて勿体無いよね?
[巣桜 司]
「……」
[朝蔵 大空]
「じゃあ……泳ぎにでも行く?」
[巣桜 司]
「えっ、泳ぐ?」
[朝蔵 大空]
「あ、うん。海だし」
[巣桜 司]
「さ、鮫」
司くんの顔が青ざめる。
[朝蔵 大空]
「さめ?」
[巣桜 司]
「鮫です! 食べられちゃいますー!」
[朝蔵 大空]
「あー……」
司くん、鮫が怖いから海にも入らずひとりで座ってたんだ……。
[朝蔵 大空]
「じゃあ私だけ行って来ようかな」
[巣桜 司]
「えっ、大空さん行っちゃうんですか……?」
[朝蔵 大空]
「こう……波に身を任せてプカプカーっと浮かんでくるの〜」
私はまるで自分がクラゲになったかのように、腕を動かして踊る。
[巣桜 司]
「ふひひっ、なんかワカメみたいですね!」
ワカメ!?
[朝蔵 大空]
「もー、イメージしたのはクラゲだよー!」
[巣桜 司]
「えーーーーーーー!!!!!」
そんな驚く?
[巣桜 司]
「ごほごほごほっ」
司くんったら驚きすぎて噎せちゃってるじゃん……。
いちいち疲れそうな動きをする子だなぁ。
[朝蔵 大空]
「ワカメの真似も出来るよ〜」
私は同じように腕と腰を使って精一杯ワカメの物真似をする。
[巣桜 司]
「あ、あまり違いが……」
[朝蔵 大空]
「よーし、準備体操も終わったと言う事で。私、泳いできます!」
[巣桜 司]
「大空さん!?」
司くんと喋っている間にも、私は早く海に入りたくてうずうずしていた。
私は海を目掛けて体を走らせる。
ザプーン……!!
[朝蔵 大空]
「ひえ、飲んじゃったしょっぱい……」
私は海で泳ぐと言うよりも、ただ波に身を任せて浮かんでいるのが好き!
でもたまに海の水を飲んでしまう……。
[若い男A]
「俺さっき小便したわ〜」
[若い男B]
「お前やば!俺もだけどー」
[若い男A]
「ギャハハ!!」
最悪!!
[朝蔵 大空]
「うぇ……」
タチの悪い冗談だと願いたい。
プールとかでもそうだけど、水に入っててバレないからって公共の場で"する"人ってどう言う神経してる訳?
トイレ行けよ!
まあ……。
私もだけど!
なーんちゃって!
冗談です、冗談ですー。
[朝蔵 大空]
「……!」
神聖な海で馬鹿な事を考えていたのがバチが当たったのか。
[朝蔵 大空]
「あ、足つった」
私は足をつらせてしまい、海の中へとひっくり返る。
バシャバシャ!
[朝蔵 大空]
「オボボボボ」
し、死ぬ……。
他人のおしっこが0.1%混じった海で溺れ死ぬ!
[朝蔵 大空]
「助けてー!(水中)」
[???]
「……!」
[朝蔵 大空]
「……!?(水中)」
今、何か聞こえた?
[朝蔵 大空]
「ぷはぁ……っ!」
私の体が何者かに支えられ、私はなんとか酸素を確保する事が出来た。
[朝蔵 大空]
「あ、ありがとうございます!」
誰かに救われた事を察し、私はお礼の言葉を吐き出す。
[巣桜 司(?)]
「あー、焦った焦った。司の奴、自分で行けないからって人遣い荒いんだよ」
頭上で、"司くんの声"でボソボソと何か言っているのが聞こえる。
[朝蔵 大空]
「司くん!?」
[巣桜 司(?)]
「……?」
溺れた私を助けてくれたのは、さっきまでの司くんとは違う、違和感のある司くん?だった。
ど……どうして?
「進捗は夕方」おわり……。