【設定③】ずっと隣にいてほしい。
立場が変わってもそばにいてほしい
立場が変わってもずっと隣にいてほしい
「――お嬢様、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう、キリシマ。お迎えも、ありがとう」
現在十四時半。先日、卒業式が終わって寮を退寮前に感謝を込めた掃除をしてから今日帰宅した。
……あの日、私はキリシマに簡潔に説明すると学園まで急いで送ってもらった。戻ってすぐに部屋に向かうと、もうそこは空っぽっだった。
蒼志くんの部屋ももちろん空っぽで、人が住んでいた影もなかった。
私はペアの人がいなくなったので一人部屋に移動となった。一人になったことで色々な噂が飛び交った。色恋になったけど、私は四宮の権力を使って退学を阻止をしたとかと言われていたが、ありるちゃんは『愛結ちゃんはそんなことする子じゃない! 何かの間違いよ!』と言ってくれたり、ありるちゃんの執事の小鳥遊くんは『瀬口はそんな色恋に走るような奴じゃない。退学しなくてはいけないほどの事情があったはずだ』と言ってくれて、それからも一緒にいてくれた。そんな二人に支えられたからこそ、こうやって卒業することができたのだ。
「愛結様、十五時から縁談相手である方がこちらにいらっしゃいますのでご準備を」
「そうね、そうするわ」
私は、人と会う用で購入したパステルピンク色のブラウスと小さな花柄の膝丈のスカートを着終わるとお父様がやってきた。
「愛結。湯浅様がやってきたよ、行こう」
「……はい、お父様」
私は、離れから出て本邸に向かうと応接室にお父様と向かう。その途中、最近はあっていなかったお継母様がこちらにやってくるのがわかる。相手にしようとは思っていなかったので通り過ぎると「あなたには、愛人の子がお似合いよっ」なんて叫び出した。
この人はなにを言っているのだろうか、応接室に近いこの場所で……湯浅様に聞こえたらとてもやばいのだけど。
ヒートアップしたら困るから無視して応接室に入る。そこには、茶色の髪と黒目の中年男性と私と同い年くらいでブロンドヘアの男の子がいた。
「お待たせしました、すみませんねぇ」
そうお父様が言うと湯浅社長が「いえ、そんなことありません」とニコッと笑い言った。
「お初にお目にかかります、湯浅社長。私、四宮愛結と申します。この度は良き縁をいただきありがとうございます」
「いやいや、そんなご丁寧に。ありがとうございます。紹介します、これが倅の湯浅蒼志です。蒼志、挨拶を……」
そう、し……?
名前は同じだが、髪の色が全く違うし人違いだろう。
「……っ……」
だけど、しっかり目を合わせると目の色は違うがそこにはずっと執事としていてくれた蒼志くんだった――
私は驚いて一瞬目を見開いたが、ここで湯浅社長の前で動揺しては今後のことで影響があるかもしれない。だから、初めて会ったという設定にして「蒼志さん、よろしくお願いします」とお辞儀をした。
***
「……どうぞ」
「ありがとうございます」
私は、お父様にお願いして蒼志くんと二人で話したいと告げ離れに連れて行った。私はもちろん紅茶とか淹れられないのでキリシマも一緒だ。
「ありがとう、キリシマ。下がっていいわよ、呼ぶまでここには入って来ないで」
「かしこまりました、では失礼いたします」
キリシマが部屋から出たことを確認して私は立ち上がる。
「あの、愛結さ……」
「あなたは、前まで、私のペアだった『瀬口蒼志』だったわよね?」
「……っはい、そうです」
「そう、もしよければ蒼志くんの秘密を教えて欲しい」
そう言って私は立ったまま深く頭を下げた。
「僕は、執事の名門・瀬口家の母と湯浅家の当主の間に生まれた不義の子です。湯浅家の血が入っている中、俺は瀬口家で育ちました」
「そう。じゃあ、その髪は」
「この髪と目の色は、湯浅家の前当主と瓜二つだったことから僕は偽るように言われていました。だけどそれだけ言われていたので、俺は瀬口家の子供として執事になるのだと思っていました。だから櫻乃学園に入学したのです」
だけど、それは叶うことがなかった――湯浅社長は、彼を学校を辞めさせてまでビジネスの駒としたのだ。
それを聞いた私は怒りを超えて呆れた。蒼志くんの人生をなんだと思っているのか。自分たちの行いのせいなのに本当に理不尽だ。
「……ねぇ、蒼志くん。私の旦那さんになってくれるんだよね?」
「は、はい。そのつもりで来ました」
「そっか。だよね。じゃあ、条件があるの……あのね、今蒼志くんは学歴は中退でしょ? だから、高卒試験を受けて欲しいの。それで、一年遅れになっちゃうけど一緒に大学行こう」
「……え? 大学?」
「うん。それを呑んでくれないならこの話は四宮家としてはお断りいたします」
大人のせいで理不尽な思いをするのなら、まだ大人になりきれていない“子ども”の私が彼に幸せをあげたい。幸せにしたい。
「わかりました。よろしくお願いします」
そう言って蒼志くんは頭を下げた。だから私は頭を上げるように言う。
「私が、幸せにします。蒼志くんのことを……学生の時とは立場が違いすぎるけれどあの時のように楽しく暮らしましょ」
あの時、“主従関係”だったけど私にたくさんの幸せを教えてくれたように今度は私が“夫婦”として幸せにするのだと誓った。
「僕はなんの力もないけれど、愛結さんを支えられる男になります……幸せにします」
そう言った彼は、私に微笑んだ。
その後、私と蒼志くんは婚約をした。彼は四宮家に慣れるために一緒に暮らすようになる。そして、確実に、私たちの間には愛情が芽生え始めていた。
だってもう、私たちを隔てる壁はないのだから……。
――END.――
「――お嬢様、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう、キリシマ。お迎えも、ありがとう」
現在十四時半。先日、卒業式が終わって寮を退寮前に感謝を込めた掃除をしてから今日帰宅した。
……あの日、私はキリシマに簡潔に説明すると学園まで急いで送ってもらった。戻ってすぐに部屋に向かうと、もうそこは空っぽっだった。
蒼志くんの部屋ももちろん空っぽで、人が住んでいた影もなかった。
私はペアの人がいなくなったので一人部屋に移動となった。一人になったことで色々な噂が飛び交った。色恋になったけど、私は四宮の権力を使って退学を阻止をしたとかと言われていたが、ありるちゃんは『愛結ちゃんはそんなことする子じゃない! 何かの間違いよ!』と言ってくれたり、ありるちゃんの執事の小鳥遊くんは『瀬口はそんな色恋に走るような奴じゃない。退学しなくてはいけないほどの事情があったはずだ』と言ってくれて、それからも一緒にいてくれた。そんな二人に支えられたからこそ、こうやって卒業することができたのだ。
「愛結様、十五時から縁談相手である方がこちらにいらっしゃいますのでご準備を」
「そうね、そうするわ」
私は、人と会う用で購入したパステルピンク色のブラウスと小さな花柄の膝丈のスカートを着終わるとお父様がやってきた。
「愛結。湯浅様がやってきたよ、行こう」
「……はい、お父様」
私は、離れから出て本邸に向かうと応接室にお父様と向かう。その途中、最近はあっていなかったお継母様がこちらにやってくるのがわかる。相手にしようとは思っていなかったので通り過ぎると「あなたには、愛人の子がお似合いよっ」なんて叫び出した。
この人はなにを言っているのだろうか、応接室に近いこの場所で……湯浅様に聞こえたらとてもやばいのだけど。
ヒートアップしたら困るから無視して応接室に入る。そこには、茶色の髪と黒目の中年男性と私と同い年くらいでブロンドヘアの男の子がいた。
「お待たせしました、すみませんねぇ」
そうお父様が言うと湯浅社長が「いえ、そんなことありません」とニコッと笑い言った。
「お初にお目にかかります、湯浅社長。私、四宮愛結と申します。この度は良き縁をいただきありがとうございます」
「いやいや、そんなご丁寧に。ありがとうございます。紹介します、これが倅の湯浅蒼志です。蒼志、挨拶を……」
そう、し……?
名前は同じだが、髪の色が全く違うし人違いだろう。
「……っ……」
だけど、しっかり目を合わせると目の色は違うがそこにはずっと執事としていてくれた蒼志くんだった――
私は驚いて一瞬目を見開いたが、ここで湯浅社長の前で動揺しては今後のことで影響があるかもしれない。だから、初めて会ったという設定にして「蒼志さん、よろしくお願いします」とお辞儀をした。
***
「……どうぞ」
「ありがとうございます」
私は、お父様にお願いして蒼志くんと二人で話したいと告げ離れに連れて行った。私はもちろん紅茶とか淹れられないのでキリシマも一緒だ。
「ありがとう、キリシマ。下がっていいわよ、呼ぶまでここには入って来ないで」
「かしこまりました、では失礼いたします」
キリシマが部屋から出たことを確認して私は立ち上がる。
「あの、愛結さ……」
「あなたは、前まで、私のペアだった『瀬口蒼志』だったわよね?」
「……っはい、そうです」
「そう、もしよければ蒼志くんの秘密を教えて欲しい」
そう言って私は立ったまま深く頭を下げた。
「僕は、執事の名門・瀬口家の母と湯浅家の当主の間に生まれた不義の子です。湯浅家の血が入っている中、俺は瀬口家で育ちました」
「そう。じゃあ、その髪は」
「この髪と目の色は、湯浅家の前当主と瓜二つだったことから僕は偽るように言われていました。だけどそれだけ言われていたので、俺は瀬口家の子供として執事になるのだと思っていました。だから櫻乃学園に入学したのです」
だけど、それは叶うことがなかった――湯浅社長は、彼を学校を辞めさせてまでビジネスの駒としたのだ。
それを聞いた私は怒りを超えて呆れた。蒼志くんの人生をなんだと思っているのか。自分たちの行いのせいなのに本当に理不尽だ。
「……ねぇ、蒼志くん。私の旦那さんになってくれるんだよね?」
「は、はい。そのつもりで来ました」
「そっか。だよね。じゃあ、条件があるの……あのね、今蒼志くんは学歴は中退でしょ? だから、高卒試験を受けて欲しいの。それで、一年遅れになっちゃうけど一緒に大学行こう」
「……え? 大学?」
「うん。それを呑んでくれないならこの話は四宮家としてはお断りいたします」
大人のせいで理不尽な思いをするのなら、まだ大人になりきれていない“子ども”の私が彼に幸せをあげたい。幸せにしたい。
「わかりました。よろしくお願いします」
そう言って蒼志くんは頭を下げた。だから私は頭を上げるように言う。
「私が、幸せにします。蒼志くんのことを……学生の時とは立場が違いすぎるけれどあの時のように楽しく暮らしましょ」
あの時、“主従関係”だったけど私にたくさんの幸せを教えてくれたように今度は私が“夫婦”として幸せにするのだと誓った。
「僕はなんの力もないけれど、愛結さんを支えられる男になります……幸せにします」
そう言った彼は、私に微笑んだ。
その後、私と蒼志くんは婚約をした。彼は四宮家に慣れるために一緒に暮らすようになる。そして、確実に、私たちの間には愛情が芽生え始めていた。
だってもう、私たちを隔てる壁はないのだから……。
――END.――