本当の悪役令嬢は?
「アドリーヌ・オベール。実の妹を殺害しようとした罪で極刑とす!」
 
 ペルリアン国国王陛下が、一人の令嬢に向かって厳かに宣言する。
 その瞬間、控えていた兵士たちが令嬢を拘束した。
『極刑』と名指しされたアドリーヌ・オベールは、つり上がった緑の目を見開いたが、すぐに冷静な様子で兵士たちを払うと扇を両手で持つ。
 
 アドリーヌ・オベール。
 
 腰まである見事なプラチナブロンドを豪華な髪飾りで結い上げ、細い腰を生かした薄紫色のドレスを着込んだ彼女は、水の乙女と呼んでもおかしくないほどに美しい。
 だが、彼女の性質はその姿と違って大変苛烈で、自信に溢れていると評判であった。
 
 その評判を納得させるように彼女は、臆することなく王に尋ねる。
「陛下、なぜ母が違うとはいえ、わたくしが実の妹を殺さなければならないのでしょうか? なぜ、わたくしが妹を未遂とはいえ、自ら手にかけなくてはならないのでしょうか?」
 
 周囲がざわめく。
「咎人がなんて図々しい」
「自分は罪など犯していない、という顔だな。なんて傲慢な」
「結局は命乞いでしょうよ、憐れなアドリーヌ様」
 そう言いたい放題言い合っている。
 
 声を落としてヒソヒソと話しているつもりだろうが、しっかり聞こえるほどの声量だ。
 貴族というけれど、皆この状況をつまらない日常の余興だと楽しんでいるのがありありと分かった。
 貴族のほとんどは、矜持と家名しか誇れるものがない者ばかりだ。
 
「せめて、わたくしに釈明の機会をお与えください」
「……よかろう」
 王が目配せし、アドリーヌから兵士たちが離れる。
 アドリーヌはその場で膝をつくと、王座に座る初老の王に恭しく頭を下げた。
「陛下、寛大なご配慮を賜り、深く感謝申し上げます」
「よい、アドリーヌ。そなたの言う釈明とやらを申してみよ」

「では――」
 アドリーヌは大きく深呼吸して声を上げた。



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