本当の悪役令嬢は?
「もう、詰んでいる」
「アドリーヌ様はもう、破滅ね」
「この様子だとオベール家はお取り潰しかしら?」
 周囲はそう囁き、女たちは扇の向こうで唇を上げ、男たちは神妙な面持ちを崩さないまま、心の中でこの状況を楽しんでいる。
 
 ――お取り潰しなら、こちらに財産の恩恵がもらえる。
 
 オベール家は侯爵家で名家だ。国家予算と同じほどの財産を持っていると噂がある。
 もし、本当にオベール家の取り潰しがなされるとしたら、国王陛下から各貴族に恵賜される可能性が大きい。それも国王に信望があり、取り立てている者たちの順に。
 
 我こそが陛下に供奉する者、身を捧げる者といわんばかりに売り込み始めた。
「私も知っています。アドリーヌ嬢の狡猾さを! セドリック王太子にそぐわぬお方を常々思っており、進言しようと証拠を集めている最中でございます!」
「わ、わたくしも……! アドリーヌ様のミリアン嬢に対する行いを見ております! 酷い悪女です!」
「私も」「わたくしだって」と次々に声を上げ、会場がアドリーヌへの非難で覆い尽くされる。
 
 国王陛下が軽く手を上げると、耳障りなほどうるさかった声を波打ったように静かになった。

「アドリーヌ・オベール! ミリアンへの殺害未遂、認めるか?」
 セドリックの朗々とした声が響く。
 アドリーヌは黙ったまま、俯いている。
 
 そのときだった――

「お待ちください!」
 と、ドレスを翻し、ラベンダーピンク色のふわふわとした髪をなびかせ、アドリーヌの元へ駆け寄った令嬢がいた。





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