本当の悪役令嬢は?
 アドリーヌ・オベールの真実の姿は男であった。
 しかもオベールの血など引いていない。
 
 確かに過去には「アドリーヌ・オベール」はいた。
 王太子セドリックと婚約を結んだ時点でも、アドリーヌは生存していた。
 
 ――だがその後、アドリーヌは保養地に向かう馬車の滑落事故で、母と共に亡くなってしまったのだ。
 
 オベール侯爵は大層焦った。当時はミリアンも引き取ってはいない。
 代わりに婚約を結び直す娘がいないのでは婚約はなかったことになり、より強固に結ぼうとした王家との縁も途切れてしまう。
 
 そこで考えたのが『身代わり』であった。
 
 よく似た娘を探し出し、自分の血を引く娘が見つかるまでの間に「アドリーヌ・オベール」を演じてもらうという奇策である。
 
 しかし、アドリーヌほどの娘は国中に探しても容易に見つからず気を揉んでいた中、ようやく見つけたのがノエルであった。
 
 本当によく似ていた――性別以外は。
 
 ノエルは地方を回る劇団員の間にできた子供なので、この劇団が去れば素性を知る者はいなくなる。
 侯爵は口止め料含む多大な金を払い、ノエルを引き取った。
 
 ノエルは劇団にいただけあって、「侯爵令嬢」を演じることに覚悟はあったし、貴族としての嗜みや作法も「演技」だと思えばあっという間に覚えた。
 
 最初は順調だった。
 
 まだ性別をごまかせる年齢であったし、侯爵も必死になって自分の蒔いた子種を探していたし、成長して男だと露見する前にきっと交代できるとノエルも思っていた。
 
 しかし――ここで想定外のことが起きたのだ。
 
 王太子セドリックがアドリーヌに迫りだしたからだ。






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